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岩崎恭子 / Kyoko Iwasaki   元競泳選手|現在:

成長して気づいた、人として大切なこと 競泳・岩崎恭子(中編)

Profile

 

岩崎 恭子(いわさき・きょうこ)
競技者として常に前を行く姉を追いかけ、大会に出場。
残り1枠を姉と争い出場権を獲得したバルセロナ五輪では、メダル候補にも挙がらない無名の選手だったが、本番で驚異的な成長をみせ、当時の五輪記録を塗り替えるタイムで競泳史上最年少金メダリストに輝く。その後、アトランタ五輪出場も果たした。
引退後は児童の指導法を学ぶために米国へ留学し、レッスンやイベント出演を通して水泳の楽しさを伝える活動をしている。

 金メダルのきっかけは、大きな姉の存在だった

小松:
ところで岩崎さん、ちょっと話は変わりますが、子どもの頃の話、水泳との出会いなども聞かせてください。

岩崎:
私が水泳を始めたのは、5 歳のときにスイミングスクールに通いだしたのがきっかけです。今では子供たちは色々な習い事をやっていますが、私が小さいころの習い事といえば、スイミングスクールと体操教室ぐらいだったんですね。私が小学生になった頃には色々な習い事が出てきましたけどね。
私には姉(敬子)がいるんですが、幼い頃は姉の真似ばかりしていたんです。水泳も姉が習 っていたので、姉の真似をして水泳をはじめました。
姉が水泳を始めたのは、病弱でよく風邪をひく子だったのと、小学校になれば学校で水泳の授業もあるし、私の実家は静岡の沼津なんですが、海が近くにあります。だから水泳は習わせておいた方がいいだろうという親の思いで、姉は水泳をはじめたんですね。

東:
金メダルのきっかけはお姉さんだったってことですね。

岩崎:
そうですね。本当に私は姉の真似ばかりしていて、習い事も一緒、学歴も一緒なんです。大学の学科だけは違いましたけどね。
姉は水泳をやるにつれて、だんだんとタイムが速くなっていって。
私はその背中を追いかけて水泳をしていたのですが、だんだんとタイムが速くなる姉を見ていたので、私も先々姉のようにタイムが速くなるだろうと勝手に思っていました(笑)。 他の人が速いタイムを出していると、なんとなく高い壁のように思うのかもしれませんが、姉妹だからでしょうか? 私にとって高いハードルには思えなくて、でも今考えたらそれが成長した理由の一つなのかもしれません。

東:
小さい頃からオリンピックに出たいとか考えていたんですか?

岩崎:
いえ、実は全く思っていなかったんです。
でも当時、姉は全国大会に小学校の 4 年生から出場したんです。それで確か 6 年生の時に優勝したんですね。私も 4 年生で出場して決勝までいったんです。だからこの時も姉が 6 年生で優勝したから、私も 6 年生になれば優勝するかな? くらいに思っていました(笑)。

東:
身近にいい目標がいたってことですね。

岩崎:
はい、身近に姉といういい目標があったのが良かったんですよね。あとは目の前にあることをとことん一生懸命学んだこと、それが結果につながったのかなって思います。
姉にしたら私の存在は嫌だったと思いますけど。

東:
それは妹に追いかけられるからですか?

岩崎:
はい、そうですね。しかもことごとく私が記録を塗り替えていったので……。でも姉は勉強もスポーツもできる人だったので尊敬していましたし、私はそこが小さい頃コンプレックスだったんです。

 一番近くにいるライバル

東:
フィギュアスケートの浅田真央さんは、お姉さんがスケートをやってたのが始めたきっかけだったようですし、柔道の野村忠宏さんもそうみたいですね。スポーツの世界では、弟や妹が上の兄弟を抜いていくというイメージがありますよね。

小松:
私は数々のトップアスリートに取材してますけど、オリンピックの金メダリストとかワールドカップに出てる選手って、次男次女の場合が結構多いんですよ。
目標となる存在、指針が大切だということですね。自分の先に兄や姉がいて、その背中を追いかける。身近にライバルがいて、最初は勝てないけれど、追いかけるモチベーションが生まれる可能性がある。そういうのは、兄や姉がいるトップアスリートに共通していると取材を通して思いますね。

東:
お姉さんは、たしかバルセロナオリンピックの候補選手だったんですよね?

岩崎:
候補選手といいますか、代表権が 2 枠あったんですけど、その 2 枠を争う形で姉と一緒に泳いだんです。当時は 5、6人にチャンスがあって、私と姉はその中に入っていたんです。その年の前の記録は私の方が姉よりも上回っていたんですが、一回勝負なので、何があるかはわからないんですね。

東:
周りからみると、恭子さんの方がタイムが早かったので、
「オリンピックに行くのは恭子さんだろう」
みたいな周りの声は感じてましたか?

岩崎:
いや、そんなことはないですよ。姉は高校一年生の時にインターハイで優勝してましたし。でも記録的には私がその年の最後に、日本歴代 2 位の記録出していたり……。静岡県では姉妹でオリンピックに行くか? みたいに期待を寄せてくださっているかたもいたと聞きました。

小松:
でも、一回勝負なので、誰が勝ってもおかしくない。そのぐらいみんな拮抗していたってことですかね?

岩崎:
はい、そうですね。

 個人競技は、昨日の自分がライバル

小松:
これもトップアスリートでは多いんですが、家庭環境というのはすごく大きな要因の一つなんですよ。小さい頃からスポーツをさせているというその環境が大切なんです。多分恭子さんは他の競技をやっていてもトップアスリートになれたでしょうね。

岩崎:
どうなんでしょう(笑)。ある程度は他のスポーツもできますけどね。でも水泳って動体視力は鍛えられないじゃないですか、だから運動の能力でいうならば他の選手の方が能力は高いって思いますよ。
私は幼い頃から水泳をやっていて、水泳って個人競技ですよね。勝つも負けるも全て自分だけの責任。そんなスポーツを通じで育ったんですね。
もし私が団体スポーツをやっていたら、団体スポーツって結束力とかチームワークが大切じゃないですか。でも私はそういうものが身につかなかったので、若い頃はそういう気持ちがわからない、通じ合えない部分はありましたね。

東:
なるほど。自分で「負け」も 100 パーセント引き受けなくてはいけない、ってことですね。僕はハンドボール選手なんですが、僕らは自分が調子悪くても、仲間が調子良ければ勝てることもあったりするんです(笑)。
ハンドボールではキャプテンをやってたんですが、キャプテンでももちろん調子が悪い時がありますよね。でも昔、ある力士の方とお会いして、「それは逃げている」とガツンと言われたりしたこともあります。

小松:
私も水泳部だったので、恭子さんのおっしゃっていることわかります。個人のタイム競技っ って、自己記録なんですよね。自分の記録を超えていく、毎日、毎週、毎月、自分を超えていく競技なんですよね。

岩崎:
はい、自分の記録を更新することの喜びを感じたからこそ、目の前のことを一生懸命こなしていくのが好きになったのかもしれませんね。記録を伸ばすことに喜びを感じていて、その延長線上にあったんですよオリンピックって。

東:
オリンピックを目標にするという逆算ではなくて、目の前のことをちゃんとやって、その延長線にオリンピックがあるというイメージなんですかね。

岩崎:
はい、私があの年齢だったからそれができたのかもしれませんね。年を重ねてからだと、それなりの知識が身についたり、世の中の色々なことがわかってくるのですが、若い頃は、目の前のことだけを一生懸命やっていました。

小松:
これは、日の丸を背負ったことのある人しかわからないと思うんですが、当時 13 歳、14 歳の恭子さんは記録を次々と更新して、レースに勝つことに集中しますよね。
でも外では、多くの人が「国民の期待を!」「金メダルを!」と声をあげて、横断幕が出たりするじゃないですか。そういう声が聞こえたり目に入ってくると、いやでも責任とかプレ ッシャーが生まれますよね。そういうプレッシャーは 10 代と 20 代では変わるものなんですか?

岩崎:
はい、年齢によって感じ方は違うと思います。

小松:
卓球の伊藤美誠選手いますよね。彼女は恭子さんとキャリアが近いじゃないですか。
彼女が先日、あるインタビューで言っていたことが印象的だったんですけれど、彼女、プレ ッシャーを感じたことがないそうなんですね。
でも「プレッシャーを感じたことがない」と言いすぎて、それが逆にプレッシャーになったそうです。
私はオリンピックの選手を何人も取材してますけど、本当にみなさん心が繊細で、時には応援が鬱陶しいなと感じてしまう時もあるでしょうし、逆に力になるときもあるでしょうし、そのあたりの気持ちは、日の丸背負ったことのある人しかわからないんですよね。

 話せる存在を身近におくことの大切さ

東:
オリンピックを目指して活動するのって、そういうプレッシャーを受け入れる覚悟も必要なんですよね。子どものころから、そういう部分でのメンタルのコントロールは教えられたりしたんですか?

岩崎:
今の選手たちの方がそういうのを教えられていますよね。
今は昔と違って、SNS というツールがありますから、色々なことが昔に比べてありえないぐらいのスピードで広まります。私の子どもの頃とは全然ちがいますね。だから SNS との付き合い方、発信の仕方などは、各競技団体で教えているようですし。ジュニアの合宿でも講義をしているようです。

東:
契約のこととかも教えられていると聞きます。

小松:
オリンピックに出るとガラリと環境が変わる。
とても重い重圧や責任、そして自由が奪われる場合がある。そういうことは、きっと伝えていった方がいいと思うんです。でも同時にスターという存在は必要なんですよね。
昔、北島康介さんを取材したことあって、北島さんのあの活躍って恭子さんがモチベーションだったと言っていましたよ。

岩崎:
いやいや(笑)。でも北島さんは私を慕ってくれてて、私も頼りにしていますし、彼だからわかってくれる部分があるんですよね。

小松:
多分北島さんは、恭子さんの金メダルを見て思ったんでしょうね。自分のやっている競技が、あんなに世の中に注目される、そんなステージに行けるんだっていう。

でもトップに立ったもの同士しか分からない孤独やプレッシャーってあるんでしょうね。

岩崎:
そうですね。北島さんだから理解してくれることってあるし、今でも相談したりします。
あと私は、小谷実可子さんがやっぱりすごく尊敬する存在ですし、昔から憧れでもあるんですよね。
自分が大人になって、「こういう風に年を重ねていったら素敵だな」って思えたのが小谷実可子さんなんですよ。

小松:
私はライターになって一番最初にインタビューしたのが鈴木大地さんなんです。ソウルオリンピックの頃でしたよね。本当にあの時はプレッシャーが凄まじかったそうです。

岩崎:
当時って、今ほど水泳をはじめとするスポーツが、いつもテレビで放送されているような時代じゃなかったんですよね。

小松:
水泳もまだまだでしたね。
そんな時代に現れたのが鈴木大地さんと鈴木陽二先生。そういう先人たちがいて、恭子さんはその背中を追ったということですよね。

岩崎:
そうですね。頼りになる先輩方の存在には、すごく感謝しています。

 自分との約束、を守れるか?

東:
ところで岩崎さんは、スポーツ一本で打ち込んでて、その結果何か別のものを犠牲にしてしまったな、って後悔のようなものを感じたことってありますか?

岩崎:
実は私、そういう風に思ったことがあんまりないんですよね。

私の母は教育熱心だったので、小学校の時にたくさん習い事をやっていたんですよ。それこそ、水泳をやりながら英語やお習字をしてたんですね。
だから家に帰ってきて、ランドセルを置いてすぐ遊びに行く、みたいな経験ってないんですよ。
もちろん遊びたいな、って思った時もありましたよ。でもそれらの習い事って、どれも自分がやりたいことだったので、あんまりマイナスだとは思わなかったんですよね。

小松:
超多忙な小学生、だったんですね(笑)。
水泳以外の習い事も熱心だったんですか?

岩崎:
水泳以外の習い事も好きでした。あ、でもピアノは大嫌いでした(笑)。大嫌いだったんですけどね、私の中で、嫌なことでも続けなきゃいけない、っていう気持ちがあったんですね。でも当時のピアノの先生には、6 年間続けたけれど、史上最低の生徒だ、って言われましたけどね(笑)。

東:
なんで嫌でもやったんですか?

岩崎:
約束だったからです。最初に自分が「やりたい」って言ったんでしょ? っていわれて。約束は守らないと、って思ったんですよね。

でも、ここがちょっと水泳と違ってて、ピアノの場合は、嫌いだったけど、約束を破りたくないから続けてた。でも水泳は、すごいしんどい練習でしたが、それは自分でやりたいから、そういうことをしないと速くならないから、だからどんなにしんどくても続けられたんですよね。だから水泳とピアノは「やらなくてはいけない」という理由がちょっと違ったんです。

小松:
これも色々な一流のスポーツ選手に聞いたことなんですけどね。限界の壁を突き抜ける第一条件って、自分との約束を守ることだ、っていう人が多いんですよ。

「サボりたい、遊びに行きたい」って人間だから誰しもあるじゃないですか。「これ食べたい、あれ飲みたい」とかね。
でも一流の選手って、目的を設定して、それを叶えるために自分自身に「約束」を作ることが多いらしいんです。
これって、小さい頃は“お父さんやお母さんとの約束”かもしれませんが、それが“自分と自分との約束”に変わっていくんです。そして己との約束を達成できると、恭子さんのように結果を出せる選手になれることが多いんです。

岩崎:
はい、すごくわかります。

小松:
記録や勝負の世界で生きている人って、そこがすごいんですよね。
もちろん責任感が強い人も沢山いますけれど、会社勤めの人って「誰かがやってくれるからいいや」って思っている人多いですよね?
自分が仕事を放棄しても、どうせ誰かがフォローしてくれるから、結果としては OK でしょ? みたいな状況ってありますよね。
でも、スポーツマン、特に記録と戦っている人にはそれがないんですよね。
それはアスリートはドラスティックな世界で生きている人が多いからです。だから私はアスリートを尊敬するんです。

岩崎:
ビジネスパーソンも運動選手もそうなんですが、何かを一生懸命やっている人って素晴らしいなって思うんです。
誤解されるかもしれませんが、世の中でたとえば、野球ばっかりやってる人に対して、 「あの人は野球バカで他のことはできない」
みたいに言う人いますよね。でもそれっておかしいなって思うんです。そう言う人には、 「じゃああなたはそういう経験をしたことがありますか?」
って私は逆に言いたいんですよね。言葉に発することはしませんけどね(笑)。
(つづく)

 

編集協力/設楽幸生

インタビュアー/小松 成美 Narumi Komatsu
第一線で活躍するノンフィクション作家。広告会社、放送局勤務などを経たのち、作家に転身。真摯な取材、磨き抜かれた文章には定評があり、数多くの人物ルポルタージュ、スポーツノンフィクション、インタビュー、エッセイ・コラム、小説を執筆。現在では、テレビ番組のコメンテーターや講演など多岐にわたり活躍中。

インタビュアー/東 俊介 Shunsuke Azuma
元ハンドボール日本代表主将。引退後はスポーツマネジメントを学び、日本ハンドボールリーグマーケティング部の初代部長に就任。アスリート、経営者、アカデミアなどの豊富な人脈を活かし、現在は複数の企業の事業開発を兼務。企業におけるスポーツ事業のコンサルティングも行っている。

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