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岩崎恭子 / Kyoko Iwasaki   元競泳選手|現在:

スポーツを通して伝えていきたいこと 競泳・岩崎恭子(後編)

Profile

 

岩崎 恭子(いわさき・きょうこ)
競技者として常に前を行く姉を追いかけ、大会に出場。
残り1枠を姉と争い出場権を獲得したバルセロナ五輪では、メダル候補にも挙がらない無名の選手だったが、本番で驚異的な成長をみせ、当時の五輪記録を塗り替えるタイムで競泳史上最年少金メダリストに輝く。その後、アトランタ五輪出場も果たした。
引退後は児童の指導法を学ぶために米国へ留学し、レッスンやイベント出演を通して水泳の楽しさを伝える活動をしている。

 乗り越えられない試練はない

東:
話は変わりますが、今目の前に壁があって、それを乗り越えるのに苦労したり悩んでいる人に何か伝えたいことってありませんか?

岩崎:
私ね、16 歳の時に先生に言われたことがあるんですよ。 「乗り越えられないことなんてない」 って。時間がかかるかもしれないし、思い通りにならないことが続くかもしれない。でも乗り越えられないことって、天から与えられないんだよ、って言われたんです。

東:
僕はアスリートの強みって、局面を迎える時に、
「あれに比べたら」
って思えることだと思うんです。たとえば辛い練習とか、悔しい気持ちとか、
「あれに比べたら今の状況なんて大したことない」
って思えること。これがアスリートって強いんですよね。失敗と成功を何度も繰り返し続けているのがアスリートで、まさに何度もそれを繰り返しているのが岩崎さんなのかなって思います。

小松:
その成功と失敗の気持ちが、分刻みでくるんですよね。この 1 本は乗り越えられたとか、これはダメだったとか。その蓄積が凄まじいんですよね、岩崎さんのような個人競技の場合は。

心をリカバリーできるのって、私はすごい大事だと思っていて。人はマイナスになったら落ち込むじゃないですか、でもリカバリーできる人は心をゼロに戻せるんですよね。そこから上手に整えれば上昇のスパイラルに持っていくこともできますよね。

私も色々なオリンピック選手を見てきました。恭子さんのように精神的に強い人もいれば、そうでない人もいる。でもそうでない人も、自分で自分の心を律する術を身につけている人が多い。恭子さんはそれのお手本のような人だと思います。
恭子さんって、過去にオリンピックで金メダルを取ったことで、色々なことがすべてこなせるんじゃないか、みたいな自信って身につけたりしましたか?

岩崎:
全然そういうのはないんですよ。自信を普段の仕事や生活に活かせるかっていうのは、本人次第な部分もありますし。
仕事は水泳みたいに上手にできないし、でも自分の仕事における役割みたいなのがわかって、さらに変なプライドみたいなのを出さなければいいんだなっていうのは思っていますね。
分からない時は分からないって言えることとか、私が悪かったら謝ることとか、人の意見を聞いた時に、私の考えはこうでしたけど、お話伺ったらそちらの方が正しいです申し訳ないですって思って謝れる気持ち、それを大切にしていますね。

東:
その気持ちも、自分に自信があるから持つことができるんですか?

岩崎:
いやちょっと違いますね。間違っていたら私が悪い、ただそれだけの話です(笑)。

 プライドとの付き合い方

小松:
日の丸を背負ったりすると、自分の心の中でプライドが生まれますよね。そのプライドとはどうつきあっていますか? 恭子さんはそのプライドと素の自分を上手に使い分けられていると思うんですよね。それができなくて悩んでいるアスリートって結構多いと思うんですよね。

東:
なるほど、オリンピックで金メダルを獲ると、たとえば普段の仕事で誰かから叱責された時に「私を誰だと思っているの?」っていう自分が出てきて、自分の中で自分とこじれてしまう、そんな場合にどうするかってことですよね。

岩崎:
そういう不甲斐ない自分に悔しさを感じた時は、人と会ってリフレッシュしたり。 あと心でちょっと思ったり(笑)。

小松:
話していただける範囲でいいんですけど、たとえば恭子さんが小谷実可子さんなど先輩方に相談することってどんなことなんですか?

岩崎:
そうですね、たとえば小谷実可子さんの場合だったら、実可子さんの行動を見ていれば、「あ、この通りにしていればいいんだな」ってことがわかるから、あんまり聞かなくても見てるだけで答えが見えてくる気がするんです。

小松:
仕事のことを相談したりするんですか?

岩崎:
あんまり仕事の相談はしないですけど、たとえば人間関係のこととか。

小松:
理不尽な状況に置かれたり、人間関係に巻き込まれたりしますよね。それはトップアスリートでも、会社の経営者や重役でも同じです。そういう時に、自分はどうしたらいいのか、自分は正しいのかそうでないのか? を問える人がいるというのは大切ですよね。

岩崎:
はい、すごくありがたいですよね。私はすぐ人に頼っちゃう人なので(笑)。
でも人に頼るんですけど、そこも含めて自分で決めているんですけどね最終的には。

 水泳を通じてつたえたいこと

小松:
岩崎さんはお母さんになられて、水泳の世界でやっていきたいことってあるんですか?

岩崎:
10 年前ぐらいですかね。中学か高校に講演会に行ったことがあるんですよ。その時に生徒に向かって「夢とか、やりたいことを持つのって大切ですよ」って話したんですよね。 講演会の後に質問タイムがあって、その時に生徒に、
「岩崎さんの今の夢って何ですか?」
って聞かれて、ヤバいって思ったんです(笑)。
その時に、あ、周りに夢を持てとか言ってるくせに、自分で夢持ってないなって気づいたんですよ。
その時は漠然と、水泳に関わっていく、それが大きな目標であると決めましたって話したんです。その時々に、目の前にあることをやっていこうかなって思ったんです。

小松:
それは具体的にはどういうことですか?

岩崎:
子ども達に水泳を教えたり水泳の普及活動ですね。でも水泳だけでなくて、スポーツをすることで私は心が豊かになりましたから、そういうスポーツの素晴らしさを伝えていけるんじゃないかなって思っています。

小松:
水泳って本当にいい競技なんですよ。基礎体力をつけることができますし。なにより溺れないというサバイバル能力をつけられますからね。小学生全員やった方がいいと思います。

岩崎:
そうですね、でも選手になった方がいい、とは思わないんですけどね(笑)。

東:
「できるようになる」ということを経験するための手段として、「泳ぐ」という行為はとても向いていると思うんです。スポーツ全般がそうですけどね。
スポーツが上手になるんでなくて、何かが「できるようになる」というのを経験するツールが、スポーツにはあるんだと思うし、それを多くの子ども達に使って経験して欲しいですよね。

小松:
お子さんは水泳やっているんですか?

岩崎:
今はやっていませんが泳げなくはないです。でも私が教えると言うことを聞かないし、ふざけすぎるんですよね。だから怖さも教えるために一回溺れる経験をさせたりしました。もちろんちゃんと見てますけどね。

小松:
怖さを教えることはとても大切ですよね。

岩崎:
水をガブガブ飲ませて、ちょっと危険だなって思ったらすぐに引き上げて。私は水泳やってたからそういう教え方ができるんですけどね、「水の中は危険だよ」ってこともちゃんと教えないといけないんです。
交通ルールもそうじゃないですか。ただ「ダメ」っていうんでなくて、こういうことをしたら死んじゃうんだよとか、そういう部分の教育は、私はすごく厳しいですね。

小松:
ところで恭子さん、どんなスポーツでも、その競技が発達していくには、スターが必要ですよね。そういう面では、水泳は本当に良い人材がそろっていますよね。素晴らしいとおもいませんか?

岩崎:
はい、そう思います。アトランタ五輪の失敗を経て、たくさんの人が連携し努力し、今の状況があると思います。

小松:
スイミングコーチ達の努力というのもありますよね。誰もがメダリストになれるわけではない、教育者になるというのも 1 つの道ですよね。鈴木先生も、そんな話をされてました。 自分はメダリストにはなれないから、コーチになるのが道だって思ったって。そちら側にももっと光が当たってもいいと思うんですよね。

岩崎:
やっぱりもっと水泳にも色々な人が集まらないとダメだなって思ってます。人集めですね。

小松:
今水泳は、大会が開かれると満席になりますよね。それに比べて昔は水泳を観戦競技とみなされてない時代もありましたよね。

岩崎:
昔は入場料がかからない試合も多かったですね。

 スポーツにもっとエンターテインメントを!

東:
この企画は、オリンピックのメダリストや、パラリンピックの選手など、どんどん面白い人にお話を聞いていって、それが繋がっていけば、東京オリンピックパラリンピックが終わった後でも、ずっとスポーツ選手の考えや思いを世の中に伝えられるんじゃないか、って思いからスタートしてるんですよね。

小松:
恭子さんは、今度の東京オリンピックはどう思っていますか? アスリートはどういうモチベーションを持っているのでしょう。

岩崎:
今、世間は 2020 年の東京オリンピックパラリンピックに注目が集まっていますよね。でもその終わった後が問題なんですよね。オーストラリアを見てても、シドニー大会の後とか、すごく落ち込んじゃうんですよね。

小松:
オリンピックのためだけに強化している、という状況になっているんですね。

岩崎:
完全にそうですよね。お金のかけかたも全然違いますし。まあそれはしょうがない部分ではあるんですけどね。

小松:
でも、あのシドニー大会の後のオーストラリアの状況を反面教師にすべき、っていうのが恭子さんの考えなんですね。

岩崎:
はい、あのオーストラリアが!? って正直思いました。
欧米諸国ってスポーツエンタテインメントがすごく成熟しているなって感じていたから、そういう意味でも驚きでした。

小松:
私も NBA の取材に行ったりすると、あれってエンターテイメント性がとても高くて、それが魅力なんですよね。もちろん選手のスター性もそうなんですよね。でもみんな面白いからお金を払って観にくるんですよね。水泳も最近はショーアップがすごいですよね。

岩崎:
はい、だからこそ、そうやって注目されるから、その人自身も選手としての自覚をさらに持たないと、って思います。
私の頃は今みたいにショーアップされていませんでしたからね。すごい成績を残しているのに、そんなに注目されない人もたくさんいて。
でもそういう人々がいるから今がある、っていうのはありますよね。

小松:
ところで恭子さん最近も泳いでるんですか?

岩崎:
レッスンはしますけど、自分では泳ぎませんね。

 これからのアスリートと社会のかかわり

小松:
だんだん時間が近づいてきました。子ども達に伝えたいことはありませんか?

岩崎:
何か打ち込めるものを、何でも良いので一つ作ろう、ってことですかね。
たとえば学校だけだったら、もしそこでいじめとかがあった場合、そこに逃げ場があれば救われることがありますよね。
それは芸術でもスポーツでもなんでもいいんです。打ち込める場を作っておけば、何があっても立ち向かえるものが生まれるんじゃないかと思います。

小松:
岩崎さんは逃げ場はあったんですか?

岩崎:
水泳はどうだろう……、当時は泳いでいる時は何も楽しくはなかったです。
オリンピックの後の 2 年間なんて、実はあの時闇があったんですね。表情を見ると私、全然冴えてないんですね(笑)。
でも今考えると、その時間も私にとって必要な時間だったのかなと思います。悩むことは悪いことではないですしね。小学校のころは、泳ぐことがすごく楽しかったんですけどね。でも、バルセロナの後は、泳ぎたくないって思っていましたね。でも泳がないと周りが騒ぐんだろうなって……。

小松:
それを中学生の時に経験するって、すごいことですよね。

岩崎:
当時、自分も心の底では、自分の記録を更新したら嬉しいとか、その嬉しさを知っていたから辞めなかったと思うんですね。多くの人に伝えたいのは、どうせ悩むなら前向きに悩んで欲しいって思うんです。
私の人生、ありがたいことに色々なことがタイミングよく起こるんですよ。
アメリカに行ったのも、その頃メンタルがすごく大変で、でも 1 ヶ月半ぐらいアメリカに行く機会があって、アメリカ行ったらとても気持ちが楽になったんですよね。
悩むって悪いことではないんです。だから子どもたちには、「悲観しないで、ちょっとでもいいから先を見て欲しいな」って思いますね。

小松:
ビジネスパーソンも色々なことに悩んでいる人って多いんですよね。
今私はアスリートを取材していると、大きく 2 つに分かれてるなって気づくんです。
これはあくまで私の考えなんですけどね。セルフコントロールしていて自分の人生のライフスタイルプランニングができる人と、そうでなくて周りに流されちゃう人がいるんです。

だからどんな層の選手たちにも、自分のライフスタイルプランニングしながら生きていけることを伝えていきたいんですよね。
自分の行き方をプランニングして、それに企業とかが寄り添ってあげられる社会が生まれれば、選手は競技に関わり合いながら生きていけるじゃないですか。そして社会にも関わり合いながら生きていけますよね。そういう構造になっている種目もありますけど、全部ではないですからね。
今度恭子さんの講演聴きに行かせてくださいね。

岩崎:
いえいえ私なんか(笑)。

東:
さて、改めて岩崎さんの現在の活動を“その後のメダリスト100 キャリアシフト図”に当てはめると、水泳の指導者が「A」、解説者などのメディア出演は「D」と二つの領域でご活躍なさっていることが分かりますが、今後はご自身の経験を活かしてアスリートのキャリアについてアドバイスを出来る仕事などにも取り組んでいただくのも面白いかも知れませんね。

小松:
2020年の東京オリンピックではこれまで以上にアスリートに注目が集まることが考えられますから、その後のメンタルケアというのがアスリート、スポーツ界にとって大きなテーマになるかも知れません。是非岩崎さんの経験を後輩たちに伝えてあげてほしいです。

注1)親会社勤務とはいわゆる企業スポーツである実業団チームで自らが所属していた企業で一般従業員として勤務していること
注2)親会社指導者とはいわゆる企業スポーツである実業団チームで自らが所属していた企業の指導者を務めていること
注3)プロパフォーマーとはフィギュアスケート選手がアイスダンスパフォーマーになったり、体操選手がシルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマーとして活動していること
注4)親会社以外勤務とは自らが所属していた実業団チームを所有している企業以外で一般従業員として勤務していること

小松:
今日は本当にありがとうございました。

 

編集協力/設楽幸生

インタビュアー/小松 成美 Narumi Komatsu
第一線で活躍するノンフィクション作家。広告会社、放送局勤務などを経たのち、作家に転身。真摯な取材、磨き抜かれた文章には定評があり、数多くの人物ルポルタージュ、スポーツノンフィクション、インタビュー、エッセイ・コラム、小説を執筆。現在では、テレビ番組のコメンテーターや講演など多岐にわたり活躍中。

インタビュアー/東 俊介 Shunsuke Azuma
元ハンドボール日本代表主将。引退後はスポーツマネジメントを学び、日本ハンドボールリーグマーケティング部の初代部長に就任。アスリート、経営者、アカデミアなどの豊富な人脈を活かし、現在は複数の企業の事業開発を兼務。企業におけるスポーツ事業のコンサルティングも行っている。

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