Career shift

河合純一 / Kawai Junnichi   元競泳選手|現在:

社会を変えるのは、制度よりも「人」なんです 元パラリンピック競泳日本代表・河合純一 (前編)

Profile

 

河合純一(かわい・じゅんいち)
1975年生まれの(43歳)の元競泳選手。バルセロナから6大会連続でパラリンピックに出場し、金メダル5個を含む計21個のメダルを獲得。日本パラリンピアンズ協会会長、スポーツ庁スポーツ審議会委員、独立行政法人日本スポーツ振興センターハイパフォーマンス戦略部開発課主任専門職、早稲田大学非常勤講師など様々な役職に従事している。2016年、IPC(国際パラリンピック委員会)パラリンピック殿堂入り。

東:
今回はバルセロナから6大会連続でパラリンピックに出場し、日本人最多の金メダル5個を含む計21個のメダルを獲得した元パラ競泳選手の河合純一さんにお話を伺います。

小松:
河合さんは2003年に日本パラリンピアンズ協会を発足させ、会長に就任。2016年にはIPC(国際パラリンピック委員会)に選ばれ、日本から史上初めてパラリンピック殿堂入りを果たされました。現在はスポーツ庁スポーツ審議会委員、独立行政法人日本スポーツ振興センターハイパフォーマンス戦略部開発課主任専門職、早稲田大学非常勤講師など様々な役職も務められています。

東:
生まれつき左目の視力がなく、わずかに残っていた右目の視力も15歳の時に失い、全盲となった河合さんですが、17歳で出場したバルセロナ・パラリンピックで銀メダルを2枚、銅メダルを3枚獲得したことを皮切りに6大会連続でパラリンピックに出場。大学卒業後には全盲で初の中学校教師となるなど様々な前例を打ち破ってきたキャリアの持ち主です。

小松:
三度にわたる国政への挑戦というご経験もなさっていますね。

東:
現在の河合さんを“その後のメダリスト100 キャリアシフト図”に当てはめるとするならば、“B”の競技団体運営と“C”の大学の非常勤講師ということになるでしょうか。

注1)親会社勤務とはいわゆる企業スポーツである実業団チームで自らが所属していた企業で一般従業員として勤務していること
注2)親会社指導者とはいわゆる企業スポーツである実業団チームで自らが所属していた企業の指導者を務めていること
注3)プロパフォーマーとはフィギュアスケート選手がアイスダンスパフォーマーになったり、体操選手がシルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマーとして活動していること
注4)親会社以外勤務とは自らが所属していた実業団チームを所有している企業以外で一般従業員として勤務していること

 2020年の先にある「根深い問題」

小松:
まずは現在の河合さんの活動について伺ってまいります。ちなみに今は泳いでらっしゃるんですか?

河合:
趣味で泳げる日には泳ぎますが、最近多忙であまり泳げる日がないんですよ。週1回は泳ぎたいんですけど、月1回ぐらいですね最近は。

東:
どなたかにご指導なさったりはしているのでしょうか?

河合:
競技の指導はしていません。ただ、指導というわけではないのですが、今日も日本身体障がい者水泳連盟会長として、2019年度の強化育成選手へ話をしてきたのですが、まだまだ若い人たちは意識が低く、自覚が足りないな、という印象です。もう少し本気を見せて欲しいなと、少々語気が荒くなりました(笑)。

小松:
でも若い選手たちは、河合さんの栄光の姿とその背中を追って頑張ってらっしゃるんでしょうね。

河合:
いや、今の若い子は僕のことなんて知らないですよ(笑)

東:
いえいえ、そんな事はないでしょう。ところで、現在、日本の健常者の水泳はコンスタントにとても良い成績を残していますよね。次々にスター選手が現れており、非常にうまく育成システムが機能しているような印象を受けるのですが、パラ水泳はいかがでしょうか?

河合:
他のパラ競技に比べると、よくなってきている印象はあります。ただ、本当に優れた人材を継続的に育てていくためには、短期間での結果を追い求めるのではなく、5年10年という中・長期的なスパンで考えていく必要があります。
また、競技以外の面においても、2013年にオリンピック・パラリンピックが東京で開催されることが決まってから5年半が経ちますが、良い方向へ変わった部分と、まだ変わっていない根深い問題があります。僕は、その根深い問題を2020年までにどうやって解決するのかが、最も重要な課題だと考えています。

小松:
河合さんがおっしゃっている、「根深い問題」とはなんでしょうか?

河合:
例えば、東京オリパラに向けてどうするか、ではなく、東京オリパラが終わった後にどうするか?という問題です。
競技という面では、元々、トップアスリートはオリンピックやパラリンピックを一つの節目に活動している部分がありますが、2020年は地元開催ということもあり、更に多くの選手たちが東京オリパラを機に現役生活を終えることが考えられ、様々な競技で選手層が薄くなることが危惧されます。また、現在は東京オリパラに向けて、国をあげてアスリートの活動を支援しようという機運が高まっていますが、果たしてそれが大会後にも継続するのかという点についての不安もあります。

東:
なるほど。ある意味、今の日本はオリパラ開催の影響による“スポーツバブル”、“アスリートバブル”のような状況だと言えるのかも知れません。

河合:
また、パラスポーツの振興という側面で考えると、2015年にスポーツ庁が出来たことで、国としてオリンピックとパラリンピックをともに盛り上げていくための活動を推進しているのですが、都道府県や市町村のレベルでは、健常者と障害者が連携したスポーツ活動を実施できているのかといえばそうではないことが多いんですね。

東:
健常者と障害者が連携したスポーツ活動とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか。

河合:
現状、多くの県において、健常者のスポーツはスポーツ推進局やスポーツ振興局、障害者のスポーツは福祉部や福祉局が扱っていて、一つの所轄や機関が取りまとめて活動しているわけではありません。まとめて活動しているのは、47都道府県のうち、おそらく10程度に過ぎないのではないでしょうか。都道府県のレベルですらこのような状況ですから、市区町村レベルではこの差がより顕著なんです。

小松:
とても衝撃的な事実ですね……。以前、オリンピックは文部科学省、パラリンピックは厚生労働省とそれぞれ別の省庁に担当されていたものが、2015年にスポーツ庁が出来たことを機に1つにまとめられたのではなかったのでしょうか。

河合:
形としてはそうなんですけどね。

 マニュアルだけでは自己保身を生む

東:
地元でのオリパラ開催に向けて、国をあげて取り組んでいるものだと思っていたのですが、都道府県、市区町村レベルになると、まだまだ改革が必要なんですね。

河合:
はい、スポーツ庁ができて3年が経過しましたが、まだまだ道半ばです。

小松:
そうでしたか。現在、河合さんはそのような状況を変えるために、様々な発言や提言をなさっているということですね。

河合:
そうですね。組織を変えることはなかなか難しいものですが、最終的に動くのは「人」ですから、法律や体制を整備するよりも組織を構成するメンバーの意識と行動を変えることが大切なんです。
例えば、障害者差別解消法という法律が2016年に制定されているのですが、「民間は努力義務だから結果を出さなくてもいい」と自らの都合の良い解釈しかしていない人や組織も多いですし、どうにか抜け道を見つけて潜り抜けようとしている場合もあります。象徴的なのが2018年に起きた国による障害者雇用の水増し問題ですね。省庁や地方自治体が障害者として認定されていない人間を障害者扱いし、雇用人数を水増ししていた問題で、約3700人の水増しがあったと言われています。民間企業に「障害者をどんどん雇用をしましょう!」と言っておきながら、何をやっているのかと。

小松:
それは、詭弁と言わざるを得ないですね。私の友人の話なんですが、2007年の6月に、渋谷のスパ爆発事故の被害に遭いました。彼女はその事故で下半身不随になってしまって以来、車椅子で生活していますが、社会全体がバリアフリーになることなんて無理だと理解しているそうなんです。物理的にすべての環境をバリアフリーにすることは難しい。けれど、完全にバリアフリーでなくても、受け入れる側の意識が変われば、物理的にバリアフリーより生活しやすい社会になるといっていました。ただ現実は、レストランを予約しようとしても「ウチはバリアがあり、車椅子のお客さんには迷惑がかかるので無理です」と言われることも多いそうです。

東:
障害者の方にしてみれば、単に面倒を避けるために断られているように感じてしまいますよね。

小松:
車椅子の人にご迷惑をかけてしまうから、と言って排除しているにすぎませんね。

河合:
盲導犬や補助犬関係でもそのような話はよく聞きますし、スポーツジムやスポーツクラブもそうです。バリアがあるとか、十分なサービスを提供できませんので、お一人ではご遠慮くださいと言われることも多いです。

東:
例えば、スイミングクラブで競泳のパラリンピック金メダリストである河合さんが、障害者の方はご遠慮ください、と言われて、泳がせてもらえない場合もあるということですよね。

河合:
一般の健常者の方よりは、溺れにくいと思うんですけどね(笑)。

東:
運営する側としてある程度のマニュアルが必要なことはもちろん理解出来るのですが、あまりにも多くの人達を一括りにした対応に感じます。

河合:
2018年には、とあるエンターテイメント施設で聴覚障害を持つ方が緊急時の避難連絡が聞こえないから危険だという理由で入園を拒否され、問題になりました。障害者差別解消法では、店舗や施設側が、保護者や介助者が一緒にいないと入店を拒否する、ということは差別にあたるとしています。
確かに施設側にも安全かつ円滑に組織を運営するためのマニュアルが必要だと思いますし、全てを否定するつもりはありません。ただ、どんなマニュアルも完璧ではないことを理解してほしいですし、一度作ると何年もそのままということも多いので、時代に合わせて見直し、アップデートする必要があると思います。今後、超高齢化社会をむかえる日本においては、様々な団体がより人権意識を高め、障害者差別解消法など新たな法律に対応したマニュアル作りに取り組んでいかなければならないでしょう。

小松:
2020年にオリンピック、パラリンピックを迎えることになり、今その機運が来ていますよね。そんな今だからこそ、発言をして伝える必要があるんですね。
人間社会って、素晴らしい人もいますし、イマジネーションに溢れた人もいます。でもその逆も常にあります。今は日本人の意識を変える最大の機会だと思うんですよね。そう考えると、東京オリンピック、パラリンピックって、メダルを獲るために開催するだけの大会ではないようにも思います。

東:
私の恩師である早稲田大学大学院の平田竹男先生も東京オリンピック・パラリンピックは単なるスポーツの国際大会ではなく、日本をバージョンアップさせるための大会に出来るとおっしゃっていました。たとえば、世界と比較してバリアフリー化が遅れていて、英語を話せる人が少ないという日本のウィークポイントを、オリパラを機会に改善することで、2020年以降に活きるレガシーを残すことが出来るのだと。東京オリパラを機会に障害者や外国人の方々とふれあい、様々な立場の方々に寄り添った考えを持って行動出来る人が増えれば日本は更に素晴らしい国になれると思います。

小松:
そこに理解あるマインドを持つ人が一人いるだけで状況が変わるということを考えると、やはり、制度よりも「人」が大切なのでしょうね。

河合:
はい。組織の中の一人一人が必ず改革を実現するのだという強い気持ちを持って仕事をしてくれれば、少しずつでも着実に状況は変わると思いますし、それを積み重ねること以外では組織を変え、社会を変えていく改革を実現することは出来ないと思います。
また、根本をたどると、障害者を始めとする様々な立場の人々に対する、想像力の欠如が原因なのではないかと思うので、どんどん発言していかなければとも感じています。

小松:
今の日本で問題となっている、障害者に関する様々な問題。これを河合さんは一つずつ解決していこうと尽力されています。これには、河合さんが「パラ競泳」という競技に若い頃から関わってきたことが、大きく関係しているようです。
社会を改革しようと日々精力的な活動をしているその根底には、幼少の頃から続けてきた「競泳」という競技に大きなヒントがあるようです。
次回をお楽しみに。(つづく)

 

編集協力/設楽幸生

インタビュアー/小松 成美 Narumi Komatsu
第一線で活躍するノンフィクション作家。広告会社、放送局勤務などを経たのち、作家に転身。真摯な取材、磨き抜かれた文章には定評があり、数多くの人物ルポルタージュ、スポーツノンフィクション、インタビュー、エッセイ・コラム、小説を執筆。現在では、テレビ番組のコメンテーターや講演など多岐にわたり活躍中。

インタビュアー/東 俊介 Shunsuke Azuma
元ハンドボール日本代表主将。引退後はスポーツマネジメントを学び、日本ハンドボールリーグマーケティング部の初代部長に就任。アスリート、経営者、アカデミアなどの豊富な人脈を活かし、現在は複数の企業の事業開発を兼務。企業におけるスポーツ事業のコンサルティングも行っている。

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