Career shift

戸井田カツヤ / Toida Katsuya   元プロ総合格闘家|現在:

出会いと学びが人生の選択肢を増やす 元修斗世界ライト級1位・戸井田カツヤ(後編)

Profile

 

戸井田カツヤ(といだ・かつや)
1977年長野県長野市生まれ。元プロ総合格闘家。柔道をバックボーンとする寝技のテクニシャンで、「UWFの回転体を修斗で実践している」と評されるほど面白い試合をすることで知られている。二十五歳より現役選手と並行して格闘技道場の経営を始め、現在は都内を中心に格闘技を通じてフィットネスを行う「トイカツ道場」や「ファイトフィット」など四十三店舗の格闘技道場を運営するトイカツ道場の代表を務めている。格闘家としても、元修斗世界ライト級1位、元修斗環太平洋ライト級1位、全日本アマチュア修斗選手権 ライト級 準優勝(1998年)、全日本コンバットレスリング選手権 優勝&MVP&最多一本賞(2002年)、アブダビコンバット世界大会 日本代表(2003年)、アブダビコンバット世界大会 アジア予選 準優勝(2009年)など輝かしい実績を誇る。著書に『プロ格闘家流 「できる人」の身体のつくり方』、『プロ格闘家流「史上最速ダイエット」世界標準のビジネスエリートが実践する』がある。

東:
元総合格闘家で経営者の戸井田カツヤさんへのインタビューも後編、いよいよ最終回となります。

小松:
前編、中編では現役時代から現在のビジネスのお話に至るまで様々なお話を伺ってまいりましたが、今回はアスリートとしての経験はどのようにビジネスに活かすことが出来るのかについてからお話を伺っていきたいと思います。

 ビジネスに活かせるアスリートの“強み”とは

東:
早速ですが、格闘技選手としての経験で現在のビジネスに活きていると感じる部分があればお教えいただけますか?

戸井田:
そうですね、選手時代の経験が活きているとすれば、努力し続けられることですかね。私は現役の頃、週六日から七日、ハードなトレーニングを続けてきました。この経験のおかげで、同じことをずっとやり続けることが出来るんです。私の強みの一つは同じことをずっとやり続けられること。これは格闘家としても、経営者としても同じです。

小松:
努力を継続する力をお持ちだということですね。

戸井田:
はい。例えば本をずっと読み続けることもそうですし、英会話もずっと続けていて、現在では日常会話は問題なく出来るぐらいのレベルになりました。

東:
英会話も勉強なさっているのですね!

戸井田:
実際に月に五日マンツーマン英会話教室に通うのと、月に二十日のオンライン教室を併用して、マンツーマンでネイティブの英会話講師と話す機会を、月に二十五日のペースで続けています。

小松:
学ぶこと、努力することを習慣づけていらっしゃるのですね。誰にでも出来ることではないと思いますが。

戸井田:
努力を続けていれば成功に繋がるということを格闘家時代に経験しているのが大きいですよね。大体のことは続けていれば誰にでも出来るようになりますから。

東:
トップアスリートは、努力を継続した結果、成功したという経験を持っているはずなので、他のことでも努力を継続出来るし、成功出来るはずだと。

戸井田:
ただ、努力を続けていても、成功出来ない人もいます。何が原因かといえば、正しい選択が出来ていないんです。

小松:
正しい選択とは何でしょうか?

戸井田:
自らが何をやるべきなのか、正しい選択が出来ないと成功しないんです。そのために大切なのが、選択肢を持つための知識を増やすことで、知識を増やすには、勉強をすることと、人脈を作ることの二つが必要なんです。

東:
なるほど。“知識”が不足していると、人生の選択肢は少ないですものね。

戸井田:
私は人に会うことはもちろん、本を読んだり、セミナーを聴講するなど様々なところから知識を吸収するようにしています。また、昨年は月に一度のペースで海外旅行をしたのですが、それは新たな経験をして新たなアイデアを産むためです。多様な経験をすることが知識を増やし、自らの成長につながることがわかっているので、様々な場所へ出かけたり、初めての人に会って話すようにしているんです。

小松:
日々、ご自身をアップデートなさっているのですね。

戸井田:
人は自分に合わないことをやっていても成功しません。知識をつけて、自分に合っていることを見つけたら、それを徹底的にやることです。多くのアスリートは知識が不足していることが原因で、自分に合うことを見つけられていないために、努力を継続出来るという強みを発揮出来ていないのではないかと思います。

東:
自分に合うことを見つけるための“知識”を得るためには“学び”と“出会い”が必要だということですよね。

戸井田:
ただ、世の中には会う機会をつくれない人っていますよね。色々な理由をつけて。たとえば「今日はちょっと予定があるから」と言って誘いを断る人がいますが、予定なんてずらせばいいんです。今日の取材も、元々は同じ時間に別の打ち合わせが入っていたのですが、時間をずらして両方出来るように調整しました。

東:
お忙しいところ貴重なお時間をつくっていただきありがとうございます。
行けない理由をいうのではなく、行けるように工夫をするということですね。

戸井田:
私は、効率的に時間をつかうことで、新しい出会いを生むための時間をつくるようにしています。新しい出会いは新しい機会となり、新しいビジネスにつながっていきますから、出来るだけ多くのビジネスを生むために、時間をつくる努力や工夫をしていますね。

 自らの“ミッション”を決める

小松:
新たな“出会い”や“学び”によって得た“知識”で、人生の選択肢の中から自らに合ったものを見つけられたとしたら、次のステップはそれをどうやってビジネスにしていくのかだと思うのですが?

戸井田:
そこからは、自らの人生やビジネスにおける“ミッション”をいかに明確に描き、“ビジョン”に落とし込めるのかが勝負になってきます。

東:
単に競技やスポーツ全体のために貢献する、のような曖昧な“ミッション”では、明確な“ビジョン”に落とし込めず、実現することが難しいですよね。

戸井田:
そうですね。例えば、私の目標は、格闘技で生活できる人間を作ること。つまり、格闘技界に雇用を生むことなんです。色々な経営者の方にお話を伺ってきて、雇用を生み出すということが、経営者として一番正しいことなのだと思っているんです。

小松:
それが、戸井田さんの人生の“ミッション”なのですね。

戸井田:
はい。格闘技界に雇用を創出し、給料を支払い、それによって格闘技で生活出来る人を沢山つくる。その人たちは当然、国に税金を納めますので、そうやって日本の社会全体に貢献したいと考えています。自分一人が有名になって、自分だけが稼いで、多くの税金を納めていても、自分と家族だけしか幸せに出来ないですよね。そうではなく、出来るだけ多くの人に幸せになってもらいたいというのが私の考えなんです。

東:
なかでも、特に格闘技に関わる人たちを出来るだけ多く幸せにしたいと。

戸井田:
私の中学生の頃の夢は格闘家になることだったのですが、その夢は叶いました。次にどうするのかを考えた時に、格闘技の道場を開いて、道場を店舗展開することが出来たので、客観的に考えてそこに才能があるんだなと気がつきました。なので、この才能を生かして格闘技道場をたくさん店舗展開して、より多くの会員様と、お世話になってきた格闘技界と、格闘家達を幸せにしたいと思ったんです。

小松:
戸井田さんの道場では、多くの現役格闘家もインストラクターとして働いていらっしゃいますよね。

戸井田:
私の道場で働いている現役の選手には好きなだけ格闘技を続けられるような環境を整えています。試合の前には練習に集中するために有給を取得して仕事を休んでいいと伝えていますし、ある程度の年齢になって、格闘家を続けられなくなったら、私の道場で働けばいいと言っています。これまで、格闘家が道場で働きながら自らが納得するまで安心して現役を続けられるという場を誰もつくってこなかったので、私がつくっているんです。

東:
場をつくってこなかったといいますか、つくりたくてもつくることが出来なかったのでしょうね。雇用を生み出すには安定した給与を支払わなければならないため、それに見合うだけの収益をあげなければいけないわけですが、強い格闘家を育てるための道場は、とてもニッチなサービスなのでそれほど多くの収益をあげられず、これまで十分な雇用を生めなかったと。そこを戸井田さんは、「楽しく体を動かしたい」、「かっこよくパンチが打てるようになりたい」、「サンドバッグを蹴ってみたい」という幅広い方々に向けたサービスを提供することで、新たなビジネスモデルを創り上げたわけですよね。

小松:
格闘技界にとって、ものすごい功績だと思います。

戸井田:
格闘家として本気で強くなりたいという人はいるにはいますが、それは正直、格闘技をやりたい人の全体の1%ぐらいです。この1%の人を色々な道場が取り合っていたわけですが、私はこの人たちはターゲットにしませんでした。残りの99%の人たちの中で、格闘技でダイエットをしたい、フィットネスをしたい、そういった方々にターゲットを絞ったんです。現在、トイカツ道場の会員数は約9000人になりますが、格闘技だけではなく、英会話教室も実施しています。英会話教室は通い放題で月謝が八千円と業界最安値でやっていて、追加料金は一切かかりません。最近では、ヨガもピラティスもダンスも習えるスタイルにしていますので、格闘技も英会話もヨガもやりたいという人はトイカツ道場に来ればいい、そういう“オンリーワン”の場所になっているんです。

東:
以前はボクシングもレスリングもキックボクシングも総合格闘技も柔術も習える“格闘技の食べ放題”というコンセプトだったと思うのですが、現在では英会話やヨガ、ダンスまで習えるのですね!

戸井田:
トイカツ道場は、過去に例のない新たなビジネスモデルですが、多くの人が誰かがすでに成功しているモデルを模倣しようとします。成功例の真似をすることは決して悪いことではありませんが、真似をするなら芯の部分まで徹底的にやらなければ、失敗してダメになってしまう場合が多いのではないかと思います。

 ニーズがなければ、ビジネスにはならない

小松:
トイカツ道場のビジネスモデルを後追いすることは出来るかもしれないけれど、本当に成功したいのであれば、自ら考え、新しいことに取り組まなければいけないということでしょうか?

戸井田:
そこは少し語弊があって、“新しいこと”ではなくて、“ニーズがあること”をやるのが大切なのだと思います。今回のインタビューのテーマに沿っていうなら、アスリートにしか出来ないことで、マーケットのニーズがあるビジネスが必ずあるはずです。

東:
新しいことに価値があるのではなく、ニーズがあることに価値があるわけですものね。

戸井田:
私の道場でも格闘技以外のジャンルはあくまでオプションで、あくまで格闘技を広めるという部分がメインと考えていますが、ダンスでもヨガのインストラクターでも、自らの技術を教えたいのだけれど、教えるための場所がなく、お金にもならないから教えていないという人がいらしたので、もしかしたら会員の中で教わりたいというニーズがあるかも知れないと思い、お金をお支払いして、コンテンツの一つとして指導をしていただいています。

小松:
指導者の自らのスキルを伝えたいという“ニーズ”と、道場の会員の方々のついでにだったら習いたいという潜在的な“ニーズ”をマッチングさせたわけですね。

戸井田:
そうですね。英会話に関してもあちこちに教室がありますが、どこも月何回、週何回というプランばかりで通い放題は無いと聞いたので、ニーズがあるのではないかと。格闘技の会員の方々が英会話を始めたり、英会話を目的に入会した方が格闘技を始めることもあるかも知れないですし、シナジーも期待出来ましたので。

東:
格闘家としての経験と道場経営の才能という“核”の周りに様々な事業が広がっていて、今後が本当に楽しみですね。

戸井田:
私は格闘技以外のスポーツでも、ニーズを見極めることでより大きなビジネスになる可能性があると思っています。例えば、野球は年齢を重ねるごとに競技人口が縮小していきます。ゴルフは大人になってから始める人がいますが、野球を大人になってから始める人って絶対的に少ないですよね。私から見ると、野球界は競技人口を増やす努力をしていないように感じるんです。

東:
確かに、未経験者が大人になってから野球を始めたという話は聞いたことがありませんね。

戸井田:
日本では多くの人にとって野球は観戦するスポーツであり、実際にプレーするスポーツではありませんが、ゴルフは観戦スポーツであり、実際にプレーするスポーツでもありますよね。野球も老若男女が楽しむためにプレーするスポーツとしての“場”をデザイン出来れば、甲子園やプロ野球を目指す“野球が上手くなりたい人”以外に向けたマーケットが生まれ、新たなビジネスになるのではないかと思うんです。

小松:
トイカツ道場が、格闘技で“強くなりたい人”以外のマーケットを開拓したように、野球でも同じビジネスモデルを成り立たせることが出来るのではないかということですね。

戸井田:
これだけ野球の人気が高いということは、潜在的なマーケットはあるのではないかと思いますので、野球が気軽に出来るようなマーケットをつくればいいと思うんです。ゴルフの室内レッスン場は沢山あるのに、野球はせいぜいバッティングセンターくらいしかないですし、野球のレッスンプロというのも聞いたことが無いですよね。

東:
野球のレッスンプロ、面白いですね!考えたこともなかったです。

戸井田:
もし、本気でやりたいと考えている方がいれば一緒にやりますよ。野球でもゴルフでもテニスでも全部ビジネスに出来ると思います。月額課金ビジネスを展開するのは得意なので。

 経営とは、人生を背負うこと

小松:
戸井田さんのお話を伺っていると、元アスリートというよりも完全に敏腕経営者ですよね。
現在、従業員は何名くらいいらっしゃるのでしょうか?

戸井田:
正社員が四十名、業務委託が二百六十名で、合計三百名です。

東:
格闘技界にそれだけの人数の雇用を創出していらっしゃるわけですね。
雇用を増やせば増やすほど、固定費である人件費が増えるわけですが、怖さやプレッシャーは無いですか?

戸井田:
そうですね。全く無いといえば嘘になりますが、自ら掲げたミッションを実現するためにはやるしかないですから。今日も採用面談を三名実施したのですが、これからもどんどん人を増やしていかなければと考えていますし、従業員にも守るべき大切な家族がいますからね。
私はいつも「お前たちの人生は一生俺が背負っていくよ」と従業員に伝えています。

小松:
素晴らしいお考えですね。さて、ここで改めて現在の戸井田さんの活動を“その後のメダリスト100キャリアシフト図”に当てはめてみますと、ジムでの指導が「A」の領域、トイカツ道場の代表が「C」の領域、格闘技の解説者や「プロ格闘家流 史上最速ダイエット」などの執筆活動が「D」の領域と、幅広い範囲でお仕事をなさっていますが、基本的には経営者ですよね。

注1)親会社勤務とはいわゆる企業スポーツである実業団チームで自らが所属していた企業で一般従業員として勤務していること
注2)親会社指導者とはいわゆる企業スポーツである実業団チームで自らが所属していた企業の指導者を務めていること
注3)プロパフォーマーとはフィギュアスケート選手がアイスダンスパフォーマーになったり、体操選手がシルク・ドゥ・ソレイユのパフォーマーとして活動していること
注4)親会社以外勤務とは自らが所属していた実業団チームを所有している企業以外で一般従業員として勤務していること

東:
今後、アスリートのセカンドキャリアにおけるロールモデルとしてはもちろん、日本におけるスポーツ産業の発展にも大きく貢献なさっていかれる方だと確信しております。
それでは最後に、競技の名前を使わずに自己紹介をしてくださいますか。

戸井田:
格闘技道場をたくさん経営している戸井田カツヤです!笑

小松:
本日はお忙しい中貴重なお時間をありがとうございました。

戸井田:
こちらこそありがとうございました。
(おわり)

次回は、元新体操日本代表キャプテン・田中琴乃さんです。6月24日公開!

 

編集協力/設楽幸生

インタビュアー/小松 成美 Narumi Komatsu
第一線で活躍するノンフィクション作家。広告会社、放送局勤務などを経たのち、作家に転身。真摯な取材、磨き抜かれた文章には定評があり、数多くの人物ルポルタージュ、スポーツノンフィクション、インタビュー、エッセイ・コラム、小説を執筆。現在では、テレビ番組のコメンテーターや講演など多岐にわたり活躍中。

インタビュアー/東 俊介 Shunsuke Azuma
元ハンドボール日本代表主将。引退後はスポーツマネジメントを学び、日本ハンドボールリーグマーケティング部の初代部長に就任。アスリート、経営者、アカデミアなどの豊富な人脈を活かし、現在は複数の企業の事業開発を兼務。企業におけるスポーツ事業のコンサルティングも行っている。

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