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2017.12.07
ひとつに集中して自分の記録を打ち破る。フィンスイミング・松田志保
大きなカバンを持って登場した松田さんは、
フィンスイミングの日本記録保持者。
現在はスイミングコーチの仕事の傍ら、
フィンスイミングや競泳の大会にも出場。
大きなカバンの中には翌日に控えた大会の道具が入っているとのこと。
日本ではまだあまり知られていないフィンスイミングですが、
どうして松田さんはこの競技を始めたのでしょうか。
Profile
松田 志保(まつだ しほ)1991年5月生まれ
現役プロフィンスイマー。2017年の日本選手権50mCMASビーフィン、同年のロシア杯W杯女子50mサーフィスにて日本記録を樹立。リレーなどを含め、現在9種目で日本記録を保持。現在プロアスリートとして活動をする一方、コーチとして指導も行う。フィンスイミングの知名度を上げる活動に、日々取り組んでいる。
INDEX
一生懸命練習した分だけ速くなる
―― 松田さんが水泳を始めたきっかけは何でしたか?
小学2年生の頃、近所のプールの短期教室へ行ったことがきっかけでしたね。
泳げなかったのであまり気が向かなかったのですが、やり始めたら一瞬で泳げるようになってしまって。
テストはすべて一発合格でした。
そのうちバタフライが泳げるようになって、スクールの選手コースに誘われました。
中学と高校でも水泳部に所属していましたが、練習はほぼスイミングスクールでやっていました。
当時は全国大会で決勝に残るか残らないかくらいの成績で、特別に速かったわけではありません。
ライバルへの闘争心はそれほど持っていなかったのですが、いい記録が出せない平凡な自分が嫌いだったので練習に励んでいました。
―― 高校卒業後は大阪体育大学に進学したのですね。引き続き水泳をやっていたのですか?
そうですね。推薦で入学して、水泳部に所属していました。
速く泳ぐためにひたすら練習に打ち込んでいました。
正直なことを言うと、中学、高校時代は「どうやってさぼるか」ばかり考えていた時期もあります(苦笑)。
だから速くなれなかったのかもしれません。
その分、大学ではそれまで以上に思いっきり取り組みました。
リレーメンバーにも選抜されましたし、「どうすればもっとタイムを縮められるか」と自分で考えて、一生懸命に練習した分だけ技術を磨くことができる環境が気に入っていました。
競技と就活の両立は諦め、まずは水泳に専念
―― 長く続けていたスポーツを大学でやめてしまう人も多いですよね。
大学でベストが出ない期間が2、3年続いたので「やめてやる」と思ったこともありましたが、やめる理由がなかったんですよね。
一方で、大学で競技生活を終えて一般企業へ就職する仲間たちの姿も見てきました。
私よりも速く泳げて、しかも全国大会で記録を出している人たちがやめてしまうのは、不思議で仕方なかったです。
彼らは終わりを決めて頑張っていたんだと思いますが、でも、もったいない。
「ええなあ、せっかく速いのに。やめるくらいならその速さちょうだいよ!」って思っていました。
―― 大学卒業後の進路はどのように考えていましたか?
4年生の9月のインカレでみんなは卒業していったのですが、私は11月のワールドカップに出たかったので、それまでは水泳を続けるつもりでした。
大会に出るための制限タイムを突破したこともあり、記念に出場してみようと思ったんです。
私は一つのことに集中して取り組むタイプなので、就職活動と水泳を両立することはできませんでした。
就活だからという理由で練習を休むのも嫌いだったので、私は水泳一本に絞りました。
「最後の大会で練習不足なんて、なんのために一生懸命に水泳してるんやろ?」と思っていたからです。
そして、ワールドカップが終わってから就活を行い、スイミングスクールに就職しました。
「必ず水泳のコーチになりたい!」という絶対的な夢があったというよりも、水泳に全力を注いでいた当時の私にとって、この進路が自然だったんです。
フィンスイミングの練習とコーチとしての活動
―― ずっと競泳をしてきた松田さんが、フィンスイミング(以下、フィン)を始めたきっかけは何だったのでしょう。
大学時代、水泳部の練習の時にフィンの日本代表選手の谷川哲朗(たにがわ てつろう)さんがよくいらっしゃっていて、最初はバタフライを教えてもらっていました。
ある時、谷川さんがフィンをつけて泳いでいるのを見て、衝撃を受けたんです。
25mをたったの8秒くらいで泳ぐんですよ。
私もやってみたい!と思って、すぐに体験会へ行って翌週には入会しました。
4年生の時のワールドカップが終わった後の出来事です。
今も谷川さんのチームで泳ぎ続けています。
―― フィンに挑戦してみてどうでしたか?競泳との違いを感じましたか?
初めて泳いだ時はまっすぐに泳げず、競泳よりもタイムは遅くなってしまいました。
専門がバタフライだし何とかなるだろう、と考えていたのですが予想していたよりもずっと難しかったです。
まっすぐ泳ぐことができなかった時、初めて自分の左右のアンバランスさにも気づきました。
そこからは、フィンの日本代表選手を目指して練習を重ねました。
初めて日本選手権に出場した時は、同じチームの先輩に負けてしまい、こんなんじゃ代表にはなれないと悔しくて……。
さらに練習に励みました。
―― 練習の傍ら、コーチの仕事もされていたんですよね。教える側に立ってみて、いかがでしたか?
やりがいはあったし、面白かったです。
子どもやお母さんたちからも「松田コーチに教わりたい」と言ってもらえて嬉しかったですね。
ただ、コーチを2年半ほど経験したときに、やっぱりもっとフィンを普及したい、自分自身の競技生活もより充実させたいという想いが強くなったんです。
そうして退職することを決意しました。
決めたからには、きっとチャンスがたくさんある東京で活動したかったので、関西から関東に拠点を移して、まずは一般企業に勤めて経験を積みました。
私が再びプールに戻るきっかけとなったのは、フィンの体験会に「教える側」として参加した時のことでした。
指導している自分の姿を後から写真で見る機会があったんですが、私ってこんなに優しい顔をしてレッスンしているんだ……とちょっと驚いたんです。
やっぱり水泳が好きで、楽しんでいるんだなぁと実感しました。
今は自身の練習もしながら、水泳のコーチも続けています。
教える側に立つと客観的な視点を持てますし、自分自身のスキルアップにもなります。
水泳を教えることで、フィンの上達にも繋がっていくことを感じていますね。
自分が今できることはフィンスイミングができる環境づくり
―― 松田さんにお会いするまでは、実はフィンスイミングのことをあまり知りませんでした。
フィンスイミングはまだまだマイナー競技です。
そのため、選手たちの遠征費は自己負担なんです。
お金がないから遠征をしないというのは、選手にとって何よりもったいないことだと思います。
未来のフィンスイマーたちには頑張って欲しいですし、今、自分が活躍しているうちに、できるだけ環境を良くしておきたいですね。
フィンを知っている人、応援してくれる人を増やしていけば、大型のスポンサーがついて遠征費で困ることもなくなるでしょう。
北島康介(きたじま こうすけ)選手がオリンピックで金メダルを取って水泳が普及していったように、フィンの大会で記録を出して「フィンスイミングって知らない。いったいどんな競技なの?」と聞く人がいなくなるようにしたいんです。
レッスンでも試合の宣伝に励んでいるんですよ。
「今度、この大会に出るので見にきてくださいね!」と積極的に伝えています。
多くの出会いは様々なチャンスに繋がる糸口
―― 松田さんはSNSでのPRも力を入れていますね。
実際にお会いする人には、SNSの印象と違って落ち着いているね、とも言われます(笑)。
SNSでのPRに力を入れているのは、一人でも多くの人にフィンスイミングを知ってほしいからです。
ファンを増やすために工夫して投稿していますね。
SNSも続けて、大会でも良い成績を出して、この競技の知名度を確かなものにしていきたいです。
―― 次世代のフィンスイマーたちへ、どんなことを伝えたいですか?
働いているスイミングスクールでは、教えているみんなに「もっと頑張ろう!」と意識して声をかけています。
技術を磨くことは、自分の可能性を広げていくこと。
私自身、もっと記録を出せていたら活躍の場も広がって、よりたくさんの人に出会えたのかもしれないと思っていて。
多くの人に出会うということは、色々なチャンスに繋がることなので、そのために努力をすることは大切なことだと思います。
私は教える側でもあり、今もなお選手として練習をしている側でもあるので、両方が見える良いポジションにいます。
「一緒に頑張ろう」という導き方は、現役の選手の私だからこそできる励まし方だと思っているんです。
競技と仕事の両立をきちんとして、大会で成績を出すと同時に、スクールで教えることのできる幅も広げていきたいと思っています。
取材後記
「フィンスイミング選手をインタビューしたと
たくさんの人に伝えていただけると嬉しいです!」
取材の最後、松田さんはそう明るく話してくださいました。
彼女は、プロとして自身の目標を掲げると同時に、
未来の選手たちが活躍できるよう、力強いサポート役を担っています。
フィンスイミングの認知度を今より少しでも上げ、
次世代の選手たちへ、良い環境を築きたい。
その想いには、彼女の愛情が表れていました。

松田 志保Shiho Matsuda
現役プロフィンスイマー
現在:プロフィンスイマー/コーチ
松田志保 公式ホームページ
http://matsudashiho.com/
取材・文/佐藤愛美
取材・編集/榧野文香
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