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2017.11.22
自らの価値を社会に提供する。陸上競技・荒川優
荒川さんはこんな人
「スポーツなんてお金にならない」
そんな声を耳にしたこと、ありませんか。
競技を続けたところで、仕事になるの?
スポーツでご飯を食べるなんて出来ないでしょう?
そんな声を跳ね除けて、大好きな陸上競技を仕事にした方。
ちゃんと、ここにいるんですよ。
Profile
荒川 優(あらかわ ゆう)1989年4月生まれ
元陸上競技、短距離(100m)選手。ニュージーランドオタゴオープン100mにて準優勝。スポーツ選手でありながらMBAを持つ、文武両道の逸材。現在は株式会社スポーツクラウドの代表取締役として経営をしながら、走法指導の「ランニング・コネクション」の代表として子どもたちや選手の指導にも励んでいる。
INDEX
選択肢が広がるよう文武両道、陸上も勉強も手を抜きたくない
―― 荒川さん、幼い頃から走るのが速かったんですか?
いえ、まったく。小学生のときに陸上の大会に出て、たまたま走り幅跳びで1位を獲ったくらいで、飛び抜けて速く走れるわけじゃありませんでした。
ただ、中学で友人が陸上部の見学に誘ってくれたんです。
「走り幅跳びで優勝した荒川くん?」って覚えてくれていた先輩がいて、嬉しくて(笑)そんなきっかけで陸上人生がスタートしました。
ずっと陸上をやろうとか、プロ選手になろうとか、そう決めてもいなくて。
高校は藤島高校という地元福井でトップの進学校に進みました。
選択肢が広がるように、勉強と部活を両立しておきたかったんです。
両親にもずっと「スポーツはお金にならない。現実を見なさい。」なんて言われていた影響もあるかもしれません。
―― その頃から冷静な視点を持っていたんですね。高校の陸上部はどうでしたか?
高校から100mもサブ種目として始めてみたんですが、1年生のときは12秒もかかっていて、選手としては予選敗退レベル。
幅跳びでも活躍できなくて。
ただ、私負けず嫌いなんです。
毎朝5時半には家を出て朝練をして、昼休みもウエイトトレーニングをして、部活の練習後には個人で自主練をしました。
論文やトレーニング本もこれでもかというほど読みましたね。
やるからには手を抜きたくないし、誰よりも努力したって言えるようになろうと。
頭をフル回転させて考え尽くして、正しい頑張り方をする。
高2、高3と記録が伸びて、最終的に100mは10秒8のタイムで走ったんです。
走り幅跳びではインターハイにも行けました。
100mで言うと高校の期間で12秒台から10秒台になる人ってほぼいないと思うんですよね。
一般的にはありえないことを達成できて、自信になりました。
陸上を本気で取り組みたくて強豪校へ進学
―― 自分自身で思考して、努力して、飛躍的に成果もあげる。素晴らしいですね。
高校を卒業したら陸上はもう全力でやらない、もしくはやめようって考えていたんです。
勉強もちゃんと続けていたので、東大とかレベルの高い大学を目指さないといけないなっていう思いがあって。
ですが、記録が伸びるにつれて、もっと努力して本気でやったらどこまで行けるか試してみたくなったんです。
まだまだ挑戦したい。自分に期待をしたい。
そんな思いが強くなりました。
当時、陸上で一番強かったのが筑波大学で、国立でもあったので親に土下座して頼みました。
ものすごく反対されましたが、なんとか入学を許可してもらいました。
―― 強豪校に入学されて、きっとさらに努力をして、順調に進まれたんじゃないでしょうか。
実は、そこからどんどん空回りするようになってしまって。
全国から推薦で選りすぐりの人がいて、世界大会に出ている選手も何人もいる環境。
圧倒されるような雰囲気でしたが、親の反対を押し切って入部したので、しっかり結果を出して親に納得してもらうんだと意気込んでいました。
勉強もいったん手放して、陸上だけにすべてをかけることにしたんです。
すると、記録を出すことが使命感、義務感になっていって……。
あんなに楽しかった日々の練習が全然楽しくないんです。
ケガも重ねて、気持ちだけが先走ってしまって。
肝心の記録も全く伸びないんですよね。
周りからも視野が狭くなっていると注意されて、自分でも悶々としている時期でした。
絶望的な状況を何とかして変えたくて、ニュージーランドに行くことにしたんです。
思い切って留学したニュージーランドで改めて気づく、走ることって楽しい!
―― ニュージーランド、ですか?それはまたどうして?
海外留学の案内が出ていたんですよね。
ちょうど気持ちを切り替えるきっかけを探していたので、藁にもすがるような思いで参加をしました。
語学学校で英語を勉強しながら、大学にも忍び込んだりして(笑)スポーツ心理学の授業を受けていました。
めちゃくちゃ面白くて、やっぱり学ぶって楽しいなって。
大学では陸上のみに専念していたので、久しぶりの感覚でした。
それと、近くの陸上競技場でいつも練習している黒人男性と仲良くなったんですよ。
その方の特別招待でニュージーランドの大きな大会に出場したんですが、彼が「100mのニュージーランド記録保持者!我が国の英雄!」って紹介されていて。オリンピック準決勝まで進んでいるようなすごい人だったんですよ(笑)
結果、その大会で準優勝をして。
走ることが楽しいって心の底から思えました。
本当、久しぶりに。
どうして今まで苦しみながらやっていたんだろう。
走ることって、記録を出すって、本当はもっと楽しいことのはずだった。
それを思い出して帰国すると、一発目の大会で大幅な自己ベストを出すことができたんです。
―― 競技に真剣に向き合うほど、「楽しさ」を見失ってしまうのかもしれませんね。荒川さんのターニングポイントですね!
それまでは、「この練習をしなきゃいけない」というような自分の価値基準のみで動きがちでした。
でも、気持ちに余裕が生まれたことで、視点を変えたり、少し違う方法にもチャレンジしたりするようになったんです。
たとえば足を着く場所をたった1センチ手前にするだけで感覚はまったく変わりますし、型にとらわれず変化することを純粋に楽しんだ結果、いい記録にも繋がっていきました。
― 陸上への想いを強くし、2015年、26歳の若さで起業。現在は株式会社スポーツクラウドの代表取締役として輝く荒川さん。
社会の中で生きることは何らかの価値を提供していることに気づいて欲しい
―― 起業するに至ったきっかけ、ぜひ聞かせてください。
実業団の選手にお会いする機会があったんですが、皆さんどこか苦しそうで。
楽しそうに見えなかったんです。
理由を聞くと「他の社員が仕事をしている時間、僕たちは競技しかやっていない。それでも給料が入ってくるから、周りからはあまりよく思われていない。」と。
加えて、「応援されてはいないけど、競技はやりたい。自分のために続けている。」とお話されるんです。
それっておかしいなって思いました。
本来、スポーツって応援されて、記録を出すことでたくさんの人に感動や希望を与えられるもの。
もっと言うと、社会の中で生きるって、その社会で自分が何かしらの価値を提供することだと思うんです。
でも、悲しいことに選手たちが自分のことしか考えられないような状況になっていることを知って……。
そこに何か変化を起こしたいと思い、実業団からの選手としてのオファーを断って競技を引退したんです。
経営をみっちり学ぶために、一橋大学大学院に進学して経営学修士コースで2年間、必死に勉強をしました。
周りは30代、40代で管理職になるような人や、財務省や経済産業省のトップばかり。
スポーツしか知らない私はついていくのもやっと。
毎日学校に泊まり込んでひたすら机に向かい、最終的にMBAを取得しました。
スポーツはお金にならないという常識を覆す
―― 事業のひとつが「ランニング・コネクション」ですが、どんな内容なのでしょう?
これまで自分がやってきたことで、社会にいい変化を生むために何が出来るか。
まずひとつはやっぱり走り方の指導だったんです。
ランニング・コネクション(以下、ランコネ)では、すべてのスポーツの基本は走りとして、子どもたちにケガなく速くなるコツを身につけてもらいながら、完全プライベート形式で楽しく練習してもらっています。
先ほどお話したニュージーランドでの経験が、指導の中でも活きています。
子どもたちにはよい変化を体験してもらって「こんなに違うんだ!」と気付いてもらう。
それを何より大切にしています。
走ることって孤独との戦いの部分もあるので、最初から楽しむって簡単じゃありません。
でも、出来ないことが出来るようになるとか、新しいことを見つけるって、誰もが嬉しい。
記録アップはもちろん、将来の可能性も一気に広げられます。
おかげさまで少しずつ評判になって、今では全国各地の出張や、テレビ・ラジオなどのメディアに頻繁に呼ばれるようになりました。
また、オリンピック選手やJリーグチーム、プロ野球界など、トップの方々にも信頼してもらえるようになって……。
売上も、多い月ですと私単独の指導だけで400万円を超えるようになりました。
ランコネがどんどん広がることはもちろん、「スポーツは仕事にならない」といわれる中で、スポーツ指導を大きな仕事にできていることを嬉しく思います。
―― ランコネで走りの指導をされながら、「スポーツクラウド」というウェブメディアで情報発信もされていますね!
スポーツクラウドはスポーツ横断型メディアです。
アスリートの練習法、トレーニング方法だけでなく、栄養・医療など専門家の知識を集めて幅広い情報をお届けしながら、スポーツの新しい楽しみ方を提案していて。
トップアスリート、トレーナー、整形外科医、栄養士といったスポーツに関わる方たちと協力して運営していますね。
一橋で経営を学んでいたときから、スポーツクラウドの構想は頭にありました。
ただ、実際に形にするためには予算が必要だったので、最初は走りの指導でなんとか十数万円の売上を立てて、それをすべてウェブ開発費にしてコツコツ作っていきました。
スポーツクラウドでは、トップ選手や各分野の専門家が持っている知識を、分かりやすい言葉で丁寧に伝えることを大切にしています。
読んでくださった人が、「やってみよう」と行動に移せるのが一番ですから。
私たちの経験をベースにした正しい情報を、本当に喜ばれる価値として提供して、質の高いメディアにするよう意識していますね。
―― Facebookの「いいね」は4万2000超えですもんね!
ありがたいことに、日本のスポーツ系ウェブメディアで「いいね」の数が最も多いと言われています。
まず、陸上関係の皆さんが興味を持ってくださって、部活内で広がったり、先生が生徒さんに勧めてくださったりして。
やっぱり走ることはどのスポーツにも繋がるので、ラグビーやサッカーなど幅広い競技者の方に見てもらえるようになりました。
周りが欲しい情報をしっかりと発信すれば、求めてくれる人は着実に増えていくんだなって実感しています。
あとは、実業団で競技をしている選手たちと共に情報発信をする中で、彼らが「人の役に立っていることが励みになって、より競技に向き合えるようになった」と話してくれることがあって。
それも嬉しいんですよ。
本気で取り組んだ経験と論的な知識でスポーツ界を動かしていく
―― 最後に、荒川さんの今後の目標を教えてください!
会社はもちろん、荒川優という個人としての価値も高めていくことです。
私がロールモデルとしてスポーツを仕事にする前例をつくることで、スポーツをやっている人たちの道を広げていきたいですね。
私自身、選手としても一人の人間としてもたくさん考えて色々なことにチャレンジしてきましたし、経験だけじゃなく学んできた理論的な知識もあります。
どちらも余すことなく活かして、スポーツ界をどんどん動かしていきたいです。
指導させてもらう方には、スポーツを楽しみながら長く続けて欲しいんです。
考えてトライして、どんどん変化して、結果を残してもらいたい。
その経験を財産として、次はその人自身が価値を提供する側になってもらえたら、きっといい循環も生まれるんじゃないかなって。
「スポーツなんて仕事にならない」そういう世の中の概念も払拭できるはず。
スポーツを本気でやってきた人にしか伝えられないものが必ずあります。
そういう人たちと一緒に、最高のものを提供し続けていきたいです。
子どもたちも自分たちも、みんなで笑顔になれるようなものを。
取材後記
教えた生徒は3万人を超え、
「日本で最も多くの足を速くしたコーチ」と言われるまでになった、荒川さん。
「そんなにも多くの人に喜んでもらえているんだなって。自分にしか出来ないことだと自信を持って言えますし、経営しながらも一生コーチをやりたいです。変化したときの驚きの顔、嬉しそうな姿、喜んでいるところをずっと現場で見ていたくて。」
今月も来月も予約でいっぱいですと、にっこりする荒川さん。
スポーツは仕事になるんです。それも、周りに勇気を与えながら。
「スポーツで飯は食えます。努力と工夫次第でちゃんと生計を立てられる。競技に全力投球したことは、華々しいキャリアに繋げられる。それって夢がありますよね。でも、夢じゃない。私がしっかり実現して、後輩に背中を見せていきます。」

荒川 優Yu Arakawa
元陸上競技選手
現在:経営者/ランニングコーチ
走指導専門サイト「ランニング・コネクション」
http://xn--tck9b2dtb.jp/
スポーツWEBメディア「スポーツクラウド」
http://sports-crowd.net/
取材/アスリートエージェント 久野晋一郎
取材・文・編集/榧野文香
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