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柏原竜二 / Ryuji Kashiwabara   元陸上競技選手|現在:富士通(企業スポーツ推進室)勤務

「山の神」として葛藤した箱根駅伝を、今、最高の切り札に。

まだ、覚えています。

前を走る選手をひとり抜き、またひとり抜き
懸命に、そして力強く進んでいく姿。

柏原竜二という陸上競技選手は
箱根の「山の神」と呼ばれ、輝き、
日々成長していきました。

でも、彼は語ります。
箱根駅伝の偉大さに、当時は戸惑ったことを。

そして今、箱根駅伝を自身の“あるもの”として
引退後の人生に活かしていることを。

Profile

 

柏原竜二(かしわばら りゅうじ)1989年7月生まれ

元陸上競技選手(長距離走)。東洋大学時代、全日本大学駅伝で区間賞を2回獲得し、出雲駅伝では1区を2年連続日本人トップ記録で快走。また、箱根駅伝5区にて4年連続の区間賞を獲り、「山の神」と呼ばれた。現在は富士通株式会社にて企業スポーツ推進室に所属。同社の強化運動部の支援に励みながら、講演、イベント出演なども行っている。

  ただ走ることが好き。目の前のことにコツコツ取り組む

―― 柏原さんのスポーツ人生の始まりは、やはり陸上競技だったのですか?

いえ、小学生のときにまずソフトボールを始めたんです。兄たちがみんな野球をやっていたので、柏原家はどうせ野球だろうっていう空気があって。ハリーポッターでいうウィーズリー家のような(笑)(※ ハリーポッターに登場する、家族全員が魔法使いの一家)

ただ、それがものすごく嫌だったのと、所属していたソフトボールのチームがあまりにスパルタだったのも好きじゃなくて。中学生から陸上競技にシフトしたんです。

―― ウィーズリー家ですか(笑)陸上競技を選んだ理由は何だったのでしょう。

小学生のときにマラソン大会で一度も負けなかったんですよ。それで長距離に向いているのかもしれないなって思ったんです。当時はものすごく陸上競技に興味があるというわけではなく、ただ走ることが好きというか、走るのって何となくいいなって。

中学生から本格的に陸上競技を始めましたが、その先にある高校駅伝や箱根駅伝などはまったく意識していませんでした。とにかく目の前のことをしっかりやるというスタイルでした。3年生で全国大会に出場こそしましたが、全国的に名の知れた選手ではなかったですし。

―― 将来、駅伝に出たい!という熱があったわけではないんですね。走るモチベーションはどこにありましたか?

単純に走ることが好きでしたし、あとは負けず嫌いな性格ですね。県内トップ3に入る子が同じチームの同級生にいて、やっぱり速いんですよ。それが悔しくて同じように練習すればもっと僕も速くなれるだろうと、一緒に練習をしていました。

その存在は結構大きかったですし、今も一年に一回くらいは会っています。いつでもフラットに話せますね。もしその友人に出会っていなければ、僕はここまで成長できなかったですし、きっかけをくれた人だと思っています。感謝しています。

―― その後、地元福島のいわき総合高校に進学されますね。3年生で記録が飛躍的に伸びたと伺っています。

もともと偏食家で貧血気味だったので、まずは食事の見直しと改善をしました。

あとは、当時の顧問の佐藤修一先生が、自分たちで一ヶ月間の練習メニューを考えなさいと指導してくださったんですね。もっとこういう練習をしたい、この期間でこのくらい追い込まないといけない、本番一週間前の練習はこうしよう、何のために、どうすべきか。目的とそれに向けての行動をいろいろ考えるようになったのも、きっかけのひとつでした。

あと、佐藤先生がどうしていつもこのメニューをやっているかなど、ひとつひとつの意図も理解できるようになっていきました。指導者の狙い、想いを分かるようになったことで練習がより楽しくなったので、それもきっかけだったと思います。

− 東洋大学に入学後、箱根駅伝の“山登り”5区にて4年連続の区間賞。
また、区間記録を3度更新。世間は「山の神」として柏原さんを称え、彼はまたたく間に箱根のスターとなりました。

  「山の神」として箱根と世間に向き合い、そして葛藤

怖かったですね。怖いなぁと考えることが当時は多かったです。僕の一挙一動に対して世間はいろいろなことを言いますから。

競技への影響も確実にありました。結果を出さないといけないと追い込まれて、精神状態が安定せず、練習に集中できない時期もありましたね。目の前のことを一生懸命にやることが何よりのモチベーションでした。

―― 柏原さんにとって箱根駅伝とは、いったいどんな存在でしょう。

箱根駅伝のブランド力が、当時は嫌だったんです。

世界選手権やユニバーシアードでいくら結果を残しても、箱根駅伝で活躍するとそんなの誰も気にしなくなります。箱根の「山の神」ということは知っていても、じゃあ、全日本大学駅伝で区間賞を2回獲ったことを、出雲駅伝の1区を日本人トップ記録で走ったことを、いったい誰が知っているのか。そうだよね、知らないよねっていう話なんです。

他でいくら頑張っても意味がなくて、結局は箱根駅伝。目の前のことに全力を注ぐ僕としてはちょっと違うなと思ったし、箱根のその偉大さが逆につまらないなと葛藤していた時期がありました。

今は、箱根駅伝に出場した経験を上手く活用しようと考えています。世の中は「柏原って箱根で走ったらしいよ!」って反応してくれるので、それをきっかけにいい動きをしていきたいです。たとえば自分のスキルを磨いたり、出会ったひとのスキルを吸収したり。

  引退後を考えるからこそ、今をやり切る姿勢を持つ

―― 卒業後は富士通株式会社に入社し、陸上競技部に所属されました。選手として、また社会人として、心掛けていたことを聞かせてください。

富士通ではマラソンをしたかったので、そこに関して言うとやはり良いタイムを出すこと。勝負の世界なので、まず国内で勝てるようになることを考えていました。あと、選手人生を終えたときに残せているものはあるかと常に自問していました。

東洋大の酒井俊幸(さかい としゆき)監督がいつも教えてくださっていたんです。「先のことを考えて臆するのではなく、全力で競技をやりなさい。ただ、引退後に向き合える人間でいなさい。やめた後を考えて今を疎かにするのではなく、やめた後を考えるからこそ今を思い切りやりなさい。」と。

僕たちは陸上競技という好きなことに思い切り集中させてもらっている分、その他のこと、たとえば一般社会からは置いていかれている。それはもう仕方のないことなんです。だからこそ、何を残せているか。たとえば、時間ギリギリではなく余裕を持って行く、聞こえるように大きなあいさつをする、陸上部時代はそういうことを徹底していました。

―― 2017年3月31日、競技人生に幕を下ろします。引退時、果たして葛藤はなかったのでしょうか。

無いということはなかったです。人間なのでもちろん葛藤はあるんですよね。ただ、僕はありがたいことに多くの方が名前を知ってくれていて。そういう選手がネガティブな引退をしたら、それこそアスリートのセカンドキャリアがネガティブな印象になるじゃないですか。これから引退する選手も出てくる中で、そんなことはしたくなかったんです。

だからこそ自分の発言には気をつけていたし、何よりも僕自身がこれからのキャリアにわくわくしないで引退するなんてつまらないなと。現役時に見えていた景色が見えなくなるのは寂しいですが、それまで見えなかった景色が見えるようになる。違う景色を見ることができるなら、それでいいじゃないか、と。

―― ご自身の立場を冷静に捉えていらっしゃったんですね。現在はどのようなお仕事をされていますか?

富士通で企業スポーツ推進室に所属して、強化運動部の支援活動をしています。陸上競技部、女子バスケットボール部『RedWave(レッドウェーブ)』、アメフト部『FRONTIERS(フロンティアーズ)』などですね。

あと、講演やランニングイベントの出演もさせてもらっています。富士通は引退した後もさまざまな活動ができる環境があるので、ありがたいです。

  仕事のやりがいは「反省」して、次に活かすこと

僕、喋る仕事が多いんですよ。対象は老若男女いろいろですし、100人、500人に対して話すこともあります。僕たった一人で(笑)最初の頃はまったく慣れず、小学生にも大人にも同じ話し方をしていて。でも、それだと全然伝わらないんです。その時々によって言葉のニュアンスを変えないといけないことに気づきました。

なので、スポーツ教室やイベントを見学し、出演者の話し方などを学ぶようにしたんです。自分が話すイベントでは全神経を集中させ、一人ひとりの声を逃さないようにより意識するようになりました。

「あ、今こんな言葉が聞こえてきたけれど、誰ですか?」と聞いたり、拍手をしたり。「大勢の前で発表する日がいつか来るから、自分の言葉でおしゃべりできるように頑張ろうね。」と小学生に話すこともありますね。対象によって目線や伝え方を変えることも、最近はものすごく気をつけています。

―― 講演を通して伝えていること、他にもたくさんあるのではないでしょうか。

夢が持てない子どもがいる、最近そんな風潮がありますよね。でも実は、みんなやってみたいことを持っているんです。ただ言えないだけ。情報の多い中で「やれない」「なれない」ということに敏感になってしまっているだけ。未来に対しておっかなびっくりになっている子が多いんだなって気づきました。

それで、講演で「僕も、パン屋、プロ野球選手、動物園の飼育員になりたかった。でも、陸上選手という道を選びました。」って正直に話をすると、子どもは素直なので「じゃあ、どうして陸上を辞めたあとに飼育員にならなかったの?」って聞いてくるんです(笑)「それはね、こうやってみんなに会って話すことが楽しいからだよ。」って答えるんですけど。

ひとつの夢が叶わなくてもいいんです。たくさん夢を持って、そのうち何かが叶えばいい。ただ、そのためにはしっかり勉強すること、たくさんの人に会うことが大切だよ。子どもたちにはそんなことも伝えています。

―― さまざまなお仕事をされる中、やりがいを感じるのはどんなときですか?

やりがいですか。そうですね。講演をした後に感想やお礼文をいただくんですが、何が響いていたのか、届いていたのか、僕が伝えたかったことはしっかり伝わっていたのかと、振り返る時間かなと思います。もっと別の言い方をしたらよかったな、次はこうしよう、そうやって反省することも含めてです。

―― 感想を聞いたり、お礼を言われたりする先の「反省」がやりがいなんですね。

はい。反省しないって、楽しいですか……?

反省するから楽しいって僕は思うんです。こうすればよかったな、もっとこんな風にできるな、次はこっちにしよう、そう考えることは人間としてまっとうな気がするんです。

現役時代から僕は表に立つことが多かったので、今も講演や取材では「この人は何を求めているのかな」「僕のこの考えはどのように拾ってもらおうかな」とやっぱり常に考えます。 考える癖がついているのは、陸上競技をやっていたからこそだと思います。

仕事も競技も同じで、反省して改善しながら、成功も失敗も自分なりに噛み砕くことがやりがいになります。そして日々の充実になるのだと思います。

  陸上競技を通して幸せな生活を送りたい

―― 弊社では箱根駅伝に出場した選手の就活もサポートしています。ぜひ、彼らにアドバイスを贈っていただけますでしょうか。

たくさん考えていいし、考えるべきだと思います。ただ悩みすぎても仕方ないので、できることをしっかり考えて行動してみて欲しいです。

あと、どうしようって悩むときっておそらくもう就職が目の前に迫っていますよね。でも、大学に入学した時点で4年もあるのだから、先がある状態で4年後に向かって考える方がいいんじゃないかなと思います。たとえば、大学一年生からアスリートエージェントさんと関わるのもひとつの方法かもしれませんよね。

―― 最後に、柏原さんが今後どんな人生を歩んでいきたいのか、ぜひ聞かせてください。

漫画やアニメ、ゲームが好きなので、いずれそういうものに関わる仕事をしてみたいです。ただ、そのためにはまず会社の仕組みを知らないといけない。業務の進め方全般について、今は日々学び、吸収すべき時期だと考えています。

企業スポーツ推進室にいる身として、強化運動部のチームをしっかり世に発信したいので、外に出て行く機会もさらに増やしたいですね。出たがりではありませんが(笑)

人生としては、ありふれているようでありふれていない人生というか……でも、先のことは難しいですね。ずっと目の前のことに集中してきた人間なので。陸上競技を通して幸せな生活を送れたらいいなと思っています。とことん陸上競技をやったからこそ、切っても切れない縁になっていますから。

  取材後記

箱根駅伝は、僕にとってジョーカー。

柏原さんはそう話されます。
ジョーカー、つまり、最高の切り札。

「“箱根駅伝出場”という経験を、自分が生きていくための切り札にしたいし、しなきゃいけないと思っています。当時はもちろんそんなこと考えず全力でしたよ。ただ、今冷静に考えたときに、切り札として内ポケットにしまっておくことが大事。

誰もが持てるわけではない、とっておきのジョーカー
さて、柏原さんはどのようなタイミングで出し
どんな風にして使っていくのでしょうか。

彼の静かな戦いは、まだまだ続いていくのです。

 

取材/アスリートエージェント 藤江琢司
取材・文/榧野文香


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