2018.04.23

選手の引退後は明るい。積み重ねてきたものを活かして進もう。体操・岡部紗季子

インスタグラムで「#逆立ち女子」と検索すると
青い海、公園のカラフルな落書き、渋谷の交差点。

色とりどりの景色の中、大胆に、まっすぐに
かっこよく逆立ちをする、岡部さんの凛々しい姿。


▲ 岡部紗季子オフィシャルインスタグラムより

流行りの“インスタ映え”かなと思いきや、
そこには体操への愛情がこめられていました。

彼女らしいカタチで。

Profile

岡部 紗季子(おかべ さきこ)1988年5月生まれ

元体操選手。朝日生命体操クラブ出身。2005年のJOC全日本ジュニア体操競技選手権大会にて個人総合優勝を果たす。2007年、2009年には2大会連続でユニバーシアード代表に選出。現在は、指導者、イベント・メディア出演、インスタグラム「#逆立ち女子」の発信などを通して、体操の普及に励んでいる。

 体操はやり直しが効かない緊張感の高いスポーツ

―― 逆立ち女子、面白いですね!岡部さんが体操に出会ったきっかけは?

家の近所に体操クラブがあったんです。

中学高校で体操をやっていた母の勧めで、4歳のときに入りました。

ただ、運動神経がなかったのか、それともやる気がなかったのか、前転と後転ができるまで一年かかりましたね(笑)体を動かすのはとても楽しかったです。

そうして、藤村女子中学に進学しました。

全中大会(全国中学校体育大会)で10連覇するような強豪校で。

クラブでも練習を続けていたので、JOCの大会はクラブチームとして、中体連は学校の部活で出場していましたね。

高校もそのまま藤村女子です。

―― お母さんきっかけでスタートした体操。夢を持ったタイミングはありましたか?

夢ができたのは、2000年のシドニー五輪を観たときです。

ロシア代表のエカテリーナ・ロバズニュク選手の演技に衝撃を受けて。

あと、顔立ちも好きでした(笑)

この選手と同じ舞台に立ちたい、私もオリンピックに出たいって強く思うようになったのが、中学1年生のときでした。

その2年後、ナショナルチームメンバーに初めて選ばれて、17歳で全日本ジュニア個人総合優勝をしました。

最初の頃は試合前ものすごく緊張しましたね。

どの競技もそうかもしれませんが、体操って特にやり直しがきかないスポーツです。

ミスをしたらそれが点数に出ちゃいますし、どれだけ練習を重ねても試合前はいつもドキドキしていました。

足も震えますし。

緊張感の高いスポーツだなっていう印象です。

 感覚がものをいう体操、それでも辞めなかったのは体操が好きだったから

―― 体操は日々の練習を積み重ねて、感覚を研ぎ澄ますスポーツだとも伺います。

そうですね。

なので、オフはほとんどありませんでした。

元日と1月2日くらいです。

3日間休んだらひとつ技ができなくなってしまうくらい、体操って感覚がとても大事。

長期オフなんて取ったら、一般人に戻っちゃいますね(笑)

着地がほんの少しずれただけで負ける世界ですし、気を抜くとそれまで積み重ねてきたものが一気に崩れてしまいます。

365日のうち、360日以上は練習していました。

―― ハードですね……。モチベーションを保つのも簡単じゃなさそうです。

体操が好きなので、モチベーションが落ちることはほとんどありませんでした。

ただ、体操をやめたい時期はありましたね。

選手として一番ピークだった高校生の頃です。

それまではずっと、大好きな体操をやっていることがただ幸せで。

でも、結果が求められるようになって、順位がつくようになって、人と比較されるようになって……。

体操を純粋に楽しめないことが辛くなってしまいました。

両親にも初めて「体操をやめたい」と弱音を吐いて、練習も2、3日しなくて。

そうしたら、父がこんな手紙を渡してくれたんです。

— 紗季子へ

体操をやめたいなら、やめてもいいんだよ。

ただ、10年以上ずっと積み重ねてきたものを捨ててしまうのはもったいない。

だから、もし体操をやめたとしても次に繋がるようなことができたらいいね。

今までやってきたことをゼロにするんじゃなく、何かプラスにできるようなことをやったらいいんじゃないかな。

紗季子がどんな選択をしても、お父さんとお母さんは応援するよ。−

父からこの言葉をもらって、本当に安心したんです。

頑張りを見ていてくれる人がちゃんといることを実感できて、これからは応援してくれる人のためにも頑張りたいなって思いました。

モチベーションの理由がひとつ増えて、こんな気持ちになるんだなぁって私自身が新鮮でした。

 なんとなく感じた「引退」のタイミング

―― 優しくてかっこいいお父さんですね。そうして明治大学に進学されて。

父の手紙のおかげで、落ち着いた心で体操のことを考えられたので、大学進学後もクラブで練習を続けました。

大学2年生のときに開催される北京五輪を目指したくて。

体操により集中するためにも、練習環境は変えないほうがいいんじゃないかと。

それから、当時の明治大学ってあまり女子体操が発展していなくて。

スポーツ自体には力を入れているので、女子体操も食い込んでいけたらなぁと。

私が頑張ることでそのきっかけになれたらと考えていました。

でも結局、北京は出場できなかったんです。

高校生のときにピークを迎えてしまった実感もありましたし、自分自身の力不足もあって調整し切れず……。

悔しかったけれど、これが自分の実力なのかなって思いました。

―― そのときに「引退」を意識されたのでしょうか。

それもありますし、中学生からずっと出場していた大会で、初めて予選落ちしたこともひとつのきっかけでした。

自分自身でも信じられなくて大泣きしましたね。

もう選手として高いレベルを目指すことは難しいのかもしれないなって、どこかで悟って。

そのまま頑張って続けることもできたと思います。

ただ、この先、若い子や世界に対等でいることは難しいだろうなって分かったので、潔くスパッと切って第二の人生を歩もうと決めました。

ずるずるやってしまうのは怖いなって思ったんです。

 憧れの選手に会いにカナダへ!体操指導のサポートと引き換えにボランティアとして働く

―― 大学卒業と同時に引退。その後の道はどのように考えていましたか?

体操が大好きなので、やっぱり体操には関わっていたいなと思っていました。

引退して時間の余裕ができたので、よし、まずは憧れのエカテリーナ・ロバズニュク選手に会いにくぞと(笑)調べるとカナダにいることが分かって、どうせ行くなら現地で働かせてもらおうとワーキングホリデーのビザも取得しました。

可能性が少しでもあるなら準備しておこうと(笑)

結局、雇ってもらうことはできなかったんですが、体操指導に使える資格をサポートする代わりにボランティアしないかと提案されて。

結果、ボランティアとして働くことにはなりましたが、資格もちゃんと取れました。

文化の違いも経験できたし、体操選手との交流もあってよかったです。

世界がちょっと広がったような感覚でした。

帰国後は明治大学のコーチをやって、その後は少し北海道で体操指導をしていました。
その中で発達障害の子を教える機会があったんです。

1から10まで言っても、100まで言ってもできなくて、試行錯誤をし続けて、まったく話さなかった子がひとこと発した瞬間がとても嬉しくて。

親御さんも喜んでくれて……。

そっか、これが「指導」なんだなって。指導者として、わたしの転機のひとつになりました。

知り合いが同じような仕事をしているので、今も定期的に手伝っています。

 好きなことに全力で取り組む大切さ、体操に取り組んだ経験はきっと生活の役に立つ

―― 指導を通して、岡部さんはどのようなことを子どもたちに伝えていますか。

私自身は体操が大好きです。

でも、今教えている子どもたちに「絶対に体操選手になろう!」と伝えたいわけじゃなくて。

好きなことや打ち込めるものを見つけて、ひとつのことを全力でやり切る大切さを知って欲しい。

それを学んでもらえる指導を心がけています。

体操を経て、新しいことやまったく違うことにチャレンジしてもいいんです。

体操によって運動能力が磨かれて、サッカーに挑戦して、サッカー選手になった。

それも大成功です。

もっと言うと、スポーツに限らず勉強でもいい。

体操に取り組んだ経験を日常生活に役立たせてもらえたらと思って教えています。

―― 指導の他にもいろいろな活動をされているそうですね。

うーん、今、いろいろやっています(笑)

所属しているマネジメント事務所経由でイベント・メディア出演、体操をより知ってもらえるようにインスタグラムで#(ハッシュタグ)逆立ち女子という発信もしています。

あと、今年から『TEAM CRANE(チームクレーン)』という活動にも力を入れ始めています。

 体操というスポーツを知ってもらうために活躍の場を広げていく

―― チームクレーン、ですか……?

体操ってどうしても個人競技の要素が強いんですが、選手たちが集まって「体操って魅力的なスポーツなんですよ」って世の中に伝えられたら面白いだろうなって。

日本一や五輪メダリストなどの選手が7人いて、レッスンチームとして活動しています。

戦隊モノのヒーローのようなイメージですね(笑)体操に恩返しをしたいと考えているので、少しずつ広めていくように今頑張っています。

―― ヒーローっていいですね(笑)最後に、岡部さんの今後の夢を聞かせてください。

元体操選手としてアスリートとして、体操やスポーツのよさを発信すること。表現すること。

それがこれからの私が目指すものかなって思っています。

サッカーや野球などに比べて、きっと体操って一般の方にはとっつきにくいですよね。

やって楽しむというよりも、見て楽しむ競技ですし。

マイナー競技とも言われますしね。

だから、女性版SASUKE(サスケ)の『KUNOICHI(くのいち)』出演に挑戦したり、インスタグラムで逆立ち女子として発信をしたり、いろんなことに取り組んでいます。
もっと体操というスポーツに親近感を持ってもらえたらな、と。

あと、2020東京オリンピックに関わりたいです。

メディアを通して東京オリンピックの現場や臨場感を伝えたいので、キャスターをやりたくて。

私自身がアスリートなので、どの競技でもしっかりとその魅力を伝えられると思います。

オリンピックに出ていない私でも引退後に活躍できたら、他の体操選手も「引退したらこういうことをやりたい」ってより希望を持てるかもしれないなって。

どんな選手でも引退後は明るいんだよ。
そう伝えたいです。

 
取材後記

「逆立ち、しましょうか!」

取材後の写真撮影で、はつらつとした笑顔とともに
えいっと床に手をつけて、私たちを魅せてくれました。

お父さんの手紙にあったように
積み重ねてきたものをゼロにするのではなく
今の活動にしっかりと繋げている岡部さん。

彼女自身が、これからにわくわくしているから
つられてこちらも、わくわくとした気分に。

可愛らしくにこりと微笑みながら
さあ、次はどんなことを仕掛けていくのでしょう。

岡部 紗季子Sakiko Okabe

元体操選手
現在:体操指導、メディア出演など

取材/アスリートエージェント 大芦恭道
取材・文/榧野文香


岡部紗季子インスタグラム
@sakiiiiiii516

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