Consumer Services
ーサービス業

中堀 理絵 / Rie Nakahori 元競泳選手|現在:経営者/ネイリスト
縁を通して強みを広げていく
中堀さんはこんな人
やると決めて、たった一年で起業。お店をオープン。経営者としてエネルギッシュに毎日を送る中堀さん。
最も重視していることは、売り上げでも店舗拡大でもありません。
「私は周りの人に支えられて、ここまでやってきたんです。」
そう、何より大切にしているのは“人とのご縁”だったんです。
Profile
中堀 理絵(なかほり りえ)
元競泳選手。高校時代に400m個人メドレーにて2年連続で新潟県チャンピオンに輝く。引退後、ビューティサロン『Freeze by Lily』(フリーズ・バイ・リリィ)を経営しながら、実家の保険代理店業も継ぐ。東京と新潟を行き来し、パワフルに仕事に励んでいる。

―― 中堀さん、生まれも育ちも新潟なんですね。水泳を始めたきっかけは何でしたか?
兄が先に水泳をやっていて、とても楽しそうだったんです。その姿を追いかけるようにして私も3歳の頃に始めました。他にもバトミントン、陸上、剣道と色々なスポーツを同時進行でやっていて。元気が良くてじっとしていられない子どもでした(笑)
目次
練習漬けの毎日、進学は競泳を優先して
―― 水泳に力を入れるようになったのはどうしてだったんでしょうか。
小学2年生で選手コースにあがって、毎日とにかく練習漬けになったので自然と競泳一本になったんです。身体も大きいし、同世代の選手よりタイムもちょっと良かったので、「すごいね!」と褒められるようになって。嬉しくてさらに頑張るという感じでした(笑)4年生からは新潟県のジュニア合宿にも呼ばれるようになりました。
高校は県立のインターハイ常連校に進みました。私は中長距離をやっていたので、1回2時間半の練習でだいたい8kmほど泳いでいましたね。合宿ではその2倍。毎日ひたすら泳ぎ続けていたので、友人に「理絵、脳みそが塩素で溶けちゃうんじゃない?」なんて冗談で言われることもありました(笑)

―― 面白いご友人ですね(笑)その甲斐あって新潟県でチャンピオンに輝いたんですよね。
そうなんです。高2、高3と2年連続で優勝しました。400mの個人メドレーです。ただ、それぞれの種目で優勝者がいるものなので、全然たいしたことないんですよ。
あと、その頃から少しずつ不安になっていたんです。進学率のいい高校だったので、2年生になると「大学どこにする?」っていう会話が増えて、みんな勉強に力を入れ始めて。私はどうしよう、このまま競技に集中していいのかなと思いましたが、今までずっとやってきた競泳を優先しました。やるしかないという気持ちで続けていましたね。
卒業後は、新潟を出て上京しました。スポーツトレーナーの専門学校に通うためです。当時の私は、スポーツに関すること以外で自分にできることなんて無いと思ったんです。
自分を過信しないこと、冷静な判断が次のキャリアに繋がる
―― 高校生のときに不安を抱えながらもやり抜いた競泳。卒業後も続けられたんですか?
いえ、競泳を続ける気はまったく無かったんです。私は全国大会で優勝するような選手じゃなかったですし、チャンピオンという肩書きもあくまで新潟県内。このまま競技を続けてどうやって生きていくのかなって思っていたんです。身の程を知って、冷静に自分を捉えていたように思います。だから、私の現役生活は高校までなんですよ。

―― 高校生からそんなにも冷静でいるってすごいですね。客観的な視点も持たれていて。
何でしょう、自分を過信しなかったんですよね。強靭なメンタルを持っているわけじゃなかったですし、大会でそんなに大きな結果を出せるタイプでもなくて。
幼い頃は負けん気も我の強さもあったんですが、大勢の中に飛び込んでみると決して自分が一番じゃないことを知るんですよね(笑)井の中の蛙大海を知らず、です。広い世界で素晴らしい選手たちを目の当たりにして、自分自身の実力をちゃんと知ったこと。それが冷静さに繋がっていったのかもしれません。
あと、スポーツに熱を注いでいると、どうしてもその世界だけに集中してしまうんです。業界だけの繋がりになってしまって、いざ世の中に出るときに困ってしまう。仕事になりそうなことも、業界以外の人脈も、何も持っていない状態でポンッと放り出されてしまうんです。加えて、ネガティブな情報も多いですし……。

私も、どうすればいいのか全然分からなくて。結局、専門学校に入って水泳のインストラクターになりました。それでもやっぱり身体が資本ですし、お給料もそんなに高くはないですし、将来にさらに不安を感じたんですよね。若いうちはいいけれど、60歳まで続けられる仕事じゃないだろうなって。3年ほどインストラクターの仕事を頑張って、24歳のときにまったく別の道に進むことを決意しました。
― 現在、ビューティサロン『Freeze by Lily』(フリーズ・バイ・リリィ)を経営されている中堀さん。ネイル、アロマ、まつ毛エクステ。確かに、競泳とはかけ離れています。
準備期間1年のスピード起業、とにかく何かを変えてみる
―― 経営をスタートされたのはいつ頃だったんですか?そして、どうして美容業界に?聞きたいことがたくさんあります。
最初の店舗を出したのは25歳のときでした。インストラクターの仕事をやめてから1年間でせっせと準備をして。私は迷い無かったですが、親にはものすごく反対されましたし、周りもみんな「ほんとに大丈夫!?」と心配していました(笑)
私自身、ずっとネイルサロンに通っていたし美容に興味はあったんです。それに他の手段が何も思いつかなくて。勉強に力を入れてきたわけでもなく、青春のすべては競泳。もともと優秀じゃないから、ここから何かを学んで身に付けるという発想に正直ならなくて。
そう考えているうちに、インストラクターの知人からネイルの先生を紹介してもらったり、美容業界で有名な方との出会いがあったりして。人との繋がりのおかげだなと思います。ご縁があったからこそ新しいスタートができましたし、今の私がいることを痛感します。

―― たった1年で開業。スピーディーな展開ですね。大変なこと、それこそ不安になったこと、たくさんあったかと思います。
将来にモヤモヤした気持ちを抱えながら、何もしないことのほうが嫌だったんです。何かを変えなければ、何も変わらないまま。それならまずは試してみて、上手くいかなければもう一度考えてみようと思ったんです。とにかくやるぞっていう。そういう根性論みたいなものは競泳で培ったのかもしれませんね。
当時、住んでいた場所の周りを探したらネイルサロンが2店舗あったんです。お客さんとして行って「このお店はこういう感じか。じゃあ、私は違うことをやろう。」って、ちゃっかり調査なんかして(笑)
お客さまは満足したら再来店してくれます。もしダメだったら反省して次に活かしていけばいい。そういうマインドも確実に競泳の経験からきていますね。人生のベース、生きていく上での心構えは、スポーツによって築くことができたと思います。

何かを成し遂げるにはゴールを必死に追いかけて次に進むこと
―― 競泳で得られたもの、他にもありますか?
粘り強さですね。競泳は設定したタイムや本数を目指して泳ぐので、目標は普段から自然と意識するようになっていきました。何も考えずに適当にやるんじゃなくて、ゴールを必死に追いかける。クリアできたら次に目を向ける。その姿勢が当たり前になったことは競泳をやっていたからこそです。
あと、私は練習で自分自身を追い込むことが得意だったんです。たとえば100mを10本全力で泳ぐというノルマがあったとき、あと何本……?と思いながらもとにかく頑張る。しっかり泳ぎ切ると「よし!」という達成感があるし、次のステップに進めます。
仕事をしていても苦しいときがあるじゃないですか。でも、やり切ることで充実感を得られるし、その先に何か新しいことが待っているという発想になるんです。辛いことを乗り越えた先には自分が求めている結果がある。仕事や経営においてもそういう思考になれるのは、競泳のおかげだなって。

―― 競技経験が仕事に活きる。まさにビジネスアスリートですね。その後、サロンのお仕事は順調でしたか?
ありがたいことに予約が増えて、私一人では回らなくなっていきました。朝の10時から22時過ぎまで毎日パンパンで、たまには少し休みたいなと思うほどで(笑)そのタイミングで知人からネイリスト志望の方を紹介してもらって採用しました。またご縁に助けてもらったんです。オープンして2年目でした。
もちろんすべて順風満帆というわけじゃありません。売り上げが全然伸びない、少しずつ増えていくスタッフとの連携が上手くいかない、物件トラブルで移転しなければならない、そういう壁にもぶつかりました。
でも、目の前の課題をクリアしていくと、新しい気付きがあって成長できるんですよね。たとえば、私自身のコミュニケーション不足が原因だった、とか。それこそスポーツと似ていると思うんです。苦しいところを乗り越えると結果が出る。だから、何があっても楽しむようにしています。楽しもうとすると頑張れるんです(笑)

興味を持ち続けて、どんなこともチャレンジ
―― 楽しみながら進まれてきた中堀さん。「もっとお店を拡大したい!」といった大きな野望をお持ちなのではないでしょうか。
今、明大前と恵比寿に2店舗を構えているんですが、正直、店舗展開にあまり興味はなくて。ご縁で繋がったものを大切にしながら、小さな目標をつくって実現することが私のやり方。たとえば、採用したスタッフがネイルで生計を立てられるようにしっかりと育てる、とかですね。
あと、ビューティサロンにこだわっているわけじゃなくて。『Freeze by Lily』を求めてくれるお客さまや、一緒に頑張っているスタッフがいるうちはもちろん続けていきます。ただ、ものすごく執着するつもりもないんです。ビジネスを通して知り合いも増えましたし、より広い世界を見たときに他にもできることが見つかったら挑戦するかもしれません。
―― チャレンジ精神も旺盛なんですね!
チャンスがあるなら、どんなこともやってみたいんです。色んなことに興味を持っていたいなって。今回の取材も「えっ、私でいいんですか?」と戸惑いまいたが(笑)新しい機会は嬉しいですし、今までやったことのないことに挑戦し続けたいなって思います。やってみて初めて分かることも多いですからね。

チャレンジを通して周りの皆さんに刺激をもらいながら、ご縁を大切にして成長していきたいです。そうして一歩一歩進んでいけたらいいなと考えています。
やらない後悔より、やってみてダメなら別の方法を
―― アスリートって「挑戦」や「選択」の機会が多いと思うんです。そういうときに中堀さんが大切にされていることは何でしょうか。
何を選んでも、どこに進んでも、「これで良かったのかな」「あっちを選択するべきだったかな」ってきっとそんな風に考えるんです。それなら一歩でも前に踏み出すべきだなって。立ち止まっていたら、進んでもいないのに後悔するだけです。
私、サロンの他に実家の保険業もやっているんですね。というのも、ずっと親孝行できていなかったんです。現役中はほとんどプールにいましたし、東京で仕事を始めてからはほとんど帰ることもなくて……。

きっかけは父親のガンでした。今こそ親孝行しなきゃという想いで保険業もやることを決めたんです。サロンとの両立、東京と新潟。ふたつとも選択すれば大変なことは目に見えていましたが、私の意思です。自分で決めたことなら頑張るしかないですからね。
我慢しても何もやらなくても、つまずくときはつまずきます。やっぱりやっておけば良かったと、そんな後悔はもったいない。選んでみて、やってみて、ダメだったときは別の方法を考えたらいいんじゃないかと思います。進むことで新しい景色が見られるし、多くの物事に触れて成長もできる。20代からずっと曲げない、私の挑戦のやり方です。
誰かに必要とされる喜びを仕事を通して実感
―― 最後に、ビジネスアスリートとして輝く中堀さんの想いを聞かせてください。
仕事を通して、人に必要としてもらえることを実感しています。ぼんやりと生きるよりも「あなたにやって欲しい」と求められる人生の方が嬉しいじゃないですか。ビジネスの世界に飛び込んで、競泳のような生きがいを見つけることができたという感覚です。
あとはやっぱり、出逢えた人が本当に多くて。温かくて尊敬する方ばかりで……。私はまだまだ皆さんには辿り着けていませんが、思い切ってビジネスをやってみたからこそのご縁です。本当に良かったなと思いますし、これからも大切にしていきたいです。

取材後記
中堀さんのエピソードには、ここには書き切れないほどの「人」が存在していました。登場人物は幅広く、士業のご友人から、行きつけの飲食店のオーナーまで。ただ、どのご縁もとっても愛おしそうに話してくださるんです。
競泳によって鍛えた根性、身に付けた粘り強さ。
もし縁を大事にしていなければ、それらは誰にも知られず埋もれてしまったかもしれません。中堀さんが培ったものは、出会いを大切にすることで、一人、また一人と伝わっていったのだろうなと、そんな風に思いました。
ビューティサロン『Freeze by Lily』(フリーズ・バイ・リリィ)
http://freeze-lily.jp/
取材/アスリートエージェント 東里直樹
取材・文・編集/榧野文香
タグ:水泳
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