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菊池 教泰 / Noriyasu Kikuchi   柔道家|現在:経営者/パーソナルコーチ

ゴール設定をして工夫を重ねる

菊池さんはこんな人

カバンから取り出されたのは、50ページにもなる資料。一枚、また一枚とめくりながら、ご自身の活動を丁寧に教えてくださいます。その姿勢から「想い」と「熱意」が伝わってきました。

Profile

 

菊池 教泰(きくち のりやす)1980年3月生まれ

柔道家。中央大学3年時には全日本学生柔道優勝大会で優勝。また、デンマーク国際柔道大会100kg超級でも優勝する。卒業後は、五輪金メダリストを輩出している日本中央競馬会(JRA)にて競技と仕事を両立。現在は、株式会社デクブリールの代表取締役となり『こころの教育家』として、パーソナルコーチングや人材育成コンサルティングなどを行う。

  菊池さんはずっと柔道を続けられてきたんですか?

そうです。小学1年生から。当時、クラスメイトの中で一番太っていて(笑)道場の先生がスカウトしてくれたんです。父親も柔道をやっていたので、それなら私もやってみようかなって軽い気持ちでスタートしました。地元が北海道の登別なんですが、その中では結構強かったですね。

北海(ほっかい)高校では下宿生活をしていました。でも、実は私、高校2年生までずっと柔道が嫌いだったんですよ。小学生時代は特に。稽古のために好きなテレビ番組を見ることができないし、友達ともなかなか遊べないし。完全にやらされているという状態でした。

稽古中も「あと何分で終わるかな」ってことばかり考えていたから、もちろんまったく伸びない。ただ、高2の夏からは急激に強くなって主将にもなれたんです。

  突然ですね!強くなった理由が何かあったのでしょうか。

親元から出してもらいながら、このまま何も結果を出さないのは申し訳ないなっていう気持ちになって。じゃあ、強くなるにはどうしたらいいか?と自問自答しました。そこで、まずは自分の柔道を理論化してみたい!ってひらめいたんです。

今日上手くいったことをすべてノートに書いて、上手くいかなかったことは仮説を立てて試して、それでも上手くいかなかったらもう一度、と。PDCAサイクルですね。上手くいったことを集めて理論として落とし込んでいったんです。そこから急激に強くなったんですが、今の私の専門である『認知科学に基づくコーチング』の観点から、このことは説明できます。稽古に対する「認知」が変わったんですね。

それまでは時間ばかりを気にして、強くなるための情報を見逃していました。「親に申し訳ない!強くなりたい!」と感情の動きをともなうゴールを設定したことで、強くなれる情報を認知し始めたんです。稽古はレベルアップするための仮説を試す場へとなりました。

それでも簡単には全国大会へは行けなかったのですが、高3でなんとか北海道大会で優勝し、卒業後は中央大学に入学しました。当時の中央大は強豪校でしたが、私は運よく1年生からレギュラーでした。ケガも繰り返してとんとん拍子では無かったけれど、3年生のときに日本一になれたんです。中央大学24年ぶりの快挙でした。

  努力した結果、花ひらいたんですね。

ずっと抱いていた3つの夢も実現しました。

1つ目は、当時ご活躍されていた井上康生(いのうえ こうせい)選手と試合をすること。現在の全日本柔道男子監督ですね。これは、日本一になった大会の東京予選で叶えていて。私、団体戦で井上さんとバッチリ対戦しているんですよ。結果としては一本負けだったんですが。対戦したい!というところまでしか考えず、絶対に勝てるというイメージを持っていなかったから、負ける結果に結びついたんだと今となっては思いますね。反省です。

2つ目は、日本武道館という晴れの舞台で活躍すること。大学日本一が決まった会場です。 団体の決勝では私が戦って勝った時点で日本一が決まりました。大学の団体戦は7人制で試合ごとに監督が選手の順番を変えることができるので、日本一を決定する場面が自分にまわってくることはすごい確率なんです。強く想い続ければ、現実としてこういうことが起きるんだと実感しました。

ラスト3つ目は、国際大会での優勝。そうそうたる海外勢の中で表彰台の一番上にあがって、君が代を聞くことに昔からものすごく憧れがあったんです。デンマーク国際大会100kg超級で優勝して叶えました。

昔から思い描いていたことをすべて達成したことは嬉しかったです。「憧れ」って憧れているうちはそのままですが、心から望むゴールとして意識し、創意工夫をしながら自分なりの方法を探していけば、必ず「現実」になるんですよね。自分自身のこの体験が、人の成長に対して心の部分からアプローチするという今の仕事にもつながっているなと思います。

  卒業後、日本中央競馬会(以下、JRA)にご入社。柔道と仕事の両立はうまくいきましたか?

いえ、上手くいきませんでした。JRAは五輪金メダリストも輩出していて、柔道選手は毎年1人しか入れない狭き門。入ったことで満足し、その先のゴールが無かったんです。

あと、学生時代からケガが多く、「多量の稽古ができないから、少ない稽古量の中で120%のパワーを出す」という信念を持っていました。しかし、口先ばかりで練習をやらない選手だというレッテルを貼られてしまいました。私の自己評価もどんどん低くなって、結果、うつ病の薬を飲むまでに至りました。

色々なことがあり、いよいよもうダメだということで退職をしました。JRAには3年8か月いましたね。ちょうど25歳くらいでした。

  目標の大切さを痛感しますね。退職後はどうされたのでしょうか。

中央大の柔道部のコーチ、土木の仕事、ラーメン屋、塾講師の4つをやっていました。同時に、JRAでやっていた人事労務を、通信教育を通じて独学で勉強しました。

JRAにいた当時、人事部に所属していて「この仕事って面白いな」って思っていたんです。ただ、福利厚生のみを担当していたので、人事関連をもっと究めるためには最低でも給与計算ができないといけないって考えて。社会保険と税金の仕組みについて自分で学びました。

その後、総務人事のポジションでサラリーマンとして数社を転々としているうちに、気付いてしまったんです。柔道をしていた学生時代の輝きに負けているな、って……。ちょうどその時期に『認知科学に基づくコーチング』に出会いました。人の能力を最大限に引き出すという内容に心をつかまれて、「これだ!」と思って。そうして起業につながりました。

  コーチングができる企業に所属するのではなく、会社をつくったんですね!

サラリーマンじゃなく独立したいなっていう想いは昔からあったんです。でも、想像以上にしんどかったですね。軌道に乗るまでは夜勤のアルバイトをしていましたし、中学校の体育柔道授業の外部講師を委託されていたので、それも。自分の会社、夜勤バイト、柔道の講師と3つを掛け持ちでした。さすがに大変でしたね(笑)31歳の頃でした。

  それはハードですね……。株式会社デクブリールを設立されて、現在はどのようなお仕事をされているんでしょうか?

『こころの教育家』として、さまざまな人の心にアプローチする活動をしています。メインのビジネスとしては、企業向けの人材育成コンサルティングを中小企業から上場企業まで行っています。規模や依頼内容によって提供する内容は違ってきますね。

個人向けにはパーソナルコーチングをしていて、経営者、管理職、プロスポーツ選手、プロトレーナーなどを担当しています。コーチングって色々と流派的なものがあるんですが、一番大切なことはメソッドうんぬんではなく、コーチとなる人自身。その人の在り方。ただ上から目線で「俺が学んだことを教えてやる」なんて言う人はダメですね。

また、CSR(企業の社会的責任)活動として行っている『全方位に渡るこころの教育』の一環として、体育柔道授業の外部講師、教育シンポジウムのパネルディスカッションに登壇、進学塾で「目標を持つ大切さ」についての授業など、幅広く。あとは、千葉県の教育委員会からの依頼で2年目の高校教師へのフォローアップ研修も。2014年から4年連続です。

  菊池さん、コンサルティングにおいて大切にされている想いがあるそうで。

「社員のことを大切にしたい、でも、もちろん売り上げも意識しなければいけない。上手くバランスをとる方法を知りたい」。そういう社長の会社とお付き合いさせてもらっています。財務上いくら健全で格付けがトップでも、社長が社員を大切にする気がなければ提案はしていません。これは社内の空気感のようなもので、数字で表せるものではありませんが、確実に組織内には存在します。

会社のトップが、一社員をちゃんと大切にしている姿勢がとても大切です。私の役割は、「組織」という大きな鍋を「コーチング」「教育」という棒でぐるぐるかき回し、組織間の壁や対立を無くし、社員を人として尊重して大事にする企業土壌をつくること。それによって「この会社は最高で誇りに思う。だからここで働きたいし、この会社じゃなければダメだ」という感覚を生み出せるんです。

私はこれを「組織肯定感」と名付けて、造語にしました。この組織肯定感を企業内で高めていくことが私の仕事です。これが社員のパフォーマンスを最大化し、企業としての成長にもつながっていきます。

これって私自身、大学時代の柔道部で感じたことで。監督は柔道だけじゃなく、礼儀もとことん大切にされていました。柔道の強さだけじゃなく、礼儀の良さまでしっかり揃ってこそ初めて人として価値がある。私たちのことを想って、そう指導してくれました。そんな監督の柔道部にいることが誇りだったんです。

組織肯定感をつくらないと、結局は条件だけで社員から選ばれてしまいます。給与や待遇がいい会社が他にあれば、さらりと転職する人が出てきてしまう。それって悲しいですよね。私は会社の中に入り込んで、最高の組織をつくるお手伝いをしています。

  「そこにいるから幸せ」と思える組織って素晴らしいですよね。アスリート時代の経験が仕事に活きていることはありますか?

「自分でよく考える」ということですね。5年後、10年後が現在の延長線上で予想できることに、私は魅力を感じないんです。今の世の中は目まぐるしいスピードで変わり続けていますよね。大企業が倒産してしまう時代。だからこそ、考え続けて自分自身を常に変化させて、進化していきたいんです。

出世するにはどんなステップを踏めばよいか、それでどういうポジションと報酬が与えられるか、そんな風に未来が先に見えてしまうのが私は嫌で。自分の道は自分でつくっていきたいと思っています。

スポーツって自分で考えて行動することの連続で、その積み重ねです。たとえカテゴリが違う「ビジネス」の世界でも、その姿勢はやっぱり活きてきます。こんなことを実現したい、じゃあ、何をするべきかなって色々と考えて動くからです。だから、すべてのアスリートには競技を通して「自分でよく考える」訓練をしておいてほしいなと。

  自分で考える。現役中はもちろん、引退後も意識するべきことですね。

そうなんです。たとえば、引退後も実業団の企業で仕事をするとなると、周りは「競技を辞めてからも残れて良かったね。」って言ってくれるんです。でも、果たして本当にそうだろうかって。その仕事が本人に合っている保証なんてどこにも無いですから。

現役中にお世話になった企業だから、今度は仕事で返そうと思うかもしれません。でも、向いていないこと、嫌なことをやり続けることで能力を発揮できていないなら、会社にとっても本人にとっても大きな損失ですよね。それならキッパリと別の道に進むという選択肢もあると思うんです。

実業団を辞めてからもその企業に残るなら、そこで自分は何をしたいのかという理由、つまりゴール設定をちゃんとしておくべきだと思います。それも「自分でよく考える」ということですよね。

  現役アスリートたちに社会に出る前にやっておくべきことを伝えるとしたら、菊池さんは何をお話されますか?

自分はどんなことに興味があって、何が好きなのか。そのヒントを見つけておくことです。「小学生のときに図工の授業が好きだった。モノをつくることに興味があるのかも」「このテレビ番組って面白い。どうして面白いと思ったんだろう」とか、そういうのでも構いません。自分自身のアンテナを常に立てておくんです。

社会人になって大海原に出たとき、何も指針がないよりもずっと動きやすいはず。「これが好き」という気持ちって、やっぱり一番パワーを発揮できるから。

あと、これは仕組みの問題になってくるんですが、アスリートたちがあらゆる仕事を体験できる場があるといいなって思います。キッザニアの大人バージョンですね。世の中にはたくさんの職種があることを体感して、知識として吸収できるものが。そうすれば、彼らの選択肢はぐんと増えますよね。私もそういうものを作れるように奮闘中です。

  最後に、『こころの教育家』としてのゴールを教えてください。

「人の可能性を見出し、発見し、能力を極限まで引き出すこと」。 これが私の目指すゴールです。デクブリール(フランス語で見出す、発見する、の意味)という社名にもその想いをこめています。だからこそ、子どもたちはもちろん、親御さん、学校の先生方、スポーツ選手、スポーツ指導者、NPOと、あらゆる人たちにこころの教育を行い続け、私自身も成長し続けていきたいと思います。

人の良いところを見つけて、引き出す。それが自分の使命だと、強い想いと情熱を持っている菊池さん。

「本来の自分に向かって歩みを強めることができました。」「心が変われば、人生が変わるということを学びました。」「他人にやらされるのではなく、自分でやることが大切だと気付きました。」

今日も、お客さまから嬉しい声が続々と届きます。

想いは人を動かせる。だから、目の前の競技、仲間、仕事に、心をこめることを忘れずに。

 

株式会社デクブリール
http://decouvrir.jp/

取材/アスリートエージェント 小園翔太
取材・文・編集/榧野文香

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