2025.02.20

「自分の夢のために人生を懸けて挑戦する」3×3バスケ日本代表 矢野良子

「寝る間を惜しんでも目標に向けて突き進みたい。
後悔して終わりたくないんです。」

すべてのアスリートの夢の舞台オリンピック。
そのオリンピックでバスケットボール選手の矢野良子さんは
天国と地獄を体験しました。

憧れのオリンピックに日本代表として出場できる喜びと
自分のシュートがはずれて予選敗退した悪夢…。

「このまま引退はできない。」

彼女はもう一度夢の舞台に立つために
自ら3人制バスケットボールの女子リーグを立ち上げ、日々挑戦しています。

Profile

矢野良子(やの りょうこ)1978年12月生まれ

バスケットボール選手。ジャパンエナジー(現JX-ENEOS)、富士通レッドウェーブ、トヨタ自動車アンテローブスと3つのチームで優勝に貢献。WリーグプレーオフMVPを2度受賞し、日本代表として2004年アテネ五輪に出場。2017年に3人制バスケへの転向を表明し、女子国内リーグ「3W(トリプルダブル)」を立ち上げる。

母の勧めで始めたバスケットボール。勝つ喜びで続けられた。

―― 小学生のときからバスケットボールを始めたそうですが、始めたきっかけは?

私には2人の姉がいて、どちらもバスケットボールをやっていました。

小5のとき母に背中を押されて私も始めました。

当時、私はバレーボールがやりたかったのですが、姉たちと同じ競技の方が母親にとっては都合が良かったのです。

なぜなら、姉のお下がりの練習着ですむので節約になる(笑)。

母に言われたからバスケットボールを始めたようなもので、私のバスケットボール人生は、レールに乗って進んで行きました。

―― 自分の意志ではなく、決められた道を歩んできたということですか?

そうですね。

一番最初の岐路は進路を決めるとき。

正直、大学へ行きたい気持ちがないわけではなかったのですが「就職してほしい」と母に言われ、高校卒業後、ジャパンエナジー(現JX-ENEOS)に入社したんです。

でも当時の私にはバスケットボール選手として目指す世界はなく、大人に決められてここまで来たという気持ちが強かったですね。

―― そのような経緯があったのに、ここまで続けて来られた強い気持ちはいつ芽生えたのでしょうか?

練習は本当に厳しくて。

毎日辞めたいと思っていたのですが、試合に出て勝ったりチームが優勝したり、日本代表合宿に選ばれたりするとうれしくて「もうちょっと頑張ってみようかな」という前向きな気持ちに変わっていきました。

やはり試合は勝負なので、負ければ悔しいし、代表合宿に呼ばれたのに代表に選ばれないのも悔しい。そういう経験が「次こそ!」という強い気持ちを生みました。

アテネオリンピックの雪辱を晴らすためにスリーバイスリーの世界へ

―― その気持ちがアテネオリンピック出場という栄誉に繋がったのですね。そこからスリーバイスリー(3人制バスケ)への転向を決断されたのは?

アテネオリンピックは最高の舞台だったけれど、私にとっては最低でもあったのです。

私のシュートがはずれて予選敗退したので、満足のいく結果とは程遠かった。

だから「絶対にもう1回オリンピックに出たい!」と頑張ってやってきたのですが、代表選手が若手中心になり、私は代表に呼ばれなくなって。

「もう引き際かな」と思いました。

でも、どうしても「引退」の決断ができない。

やはりこのまま終わりたくない気持ちが強かったです。

そんなときにスリーバイスリーが動き出し、オリンピック競技になるかもしれないと聞いて「私はスリーバイスリーでオリンピックに出場して引退したい」と決めました。

―― スリーバイスリーへの転向は悩まず決められたんですか?

いえ、かなり悩みましたね。5人制でずっとやってきたので未練はありました。

でも、決断して3×3に転向を決断しました。でも悩みは多くて…。

たとえば、女子は試合数が少ないです。

男子はトップリーグ「3×3.PREMERE EXE(スリーバイスリープレミアドットエグゼ)」とかがありますが、女子には当時無かったので、とにかく試合数と選手を増やさないといけない。そうでないとオリンピックに出場できないと思いました。

―― 選手でありながら、自らリーグを立ち上げたのはそういう経緯なのですね。

誰かが動くのを待っていたら2020年に間に合わないと思いました。だから自分で動きました。

引退した元Wリーグの選手たちに声をかけて選手登録してもらったり、スポンサー探しに奔走したり。

いろんな方に相談をして、人を紹介していただいた中にスポンサーになってくださる方もいたので「3W(トリプルダブル)」というスリーバイスリーの女子リーグを立ち上げることができました。

選手をしながら裏方仕事も兼業!女子選手を集めるための秘策とは

―― 選手をやりながら営業活動をするなんてすごいバイタリティですね。スポンサーを探すのは大変だと思うのですがいかがでしょう。

とても大変です(笑)。

みなさん話は聞いてくださるのですが、断られることも多くて。

1試合200~300万円は必要ですからね。

でも何が何でも試合を開催しないとオリンピック出場条件のポイントが稼げないので必死です

スリーバイスリーの良いところは、まだ決まり事が少なく、誰でも試合を開催できて、それがポイントに繋がるところ。

だから私はリーグを立ち上げて試合を開催することができました。

―― 矢野さんは試合会場を決めたり、運営スタッフを集めたり、選手を増やしたりとものすごい働きぶりですが、選手は続々増えているのですか?

そうですね。

リーグ戦をやるために100人、少なくとも50人の選手は必要ですが、みんなクラブチームでプレーをしている。

そういう選手をどうやって取り込むかと考えたとき、女性は「お得感」が絶対に必要だと思いました。

「3W」の場合、参加費は無料にして、ランチとドリンクをつけたり、優勝チーム以外にも2位と3位に副賞をつけたりしました。

着々と試合数を重ねて行く中で、今では運営サイドが「3W」はずっと続けてほしいと言ってくれています。

本来「オリンピックに出場する」という自分の夢を叶える為に作ったリーグですが、そう言われるとうれしいし、やりがいを感じますね。

―― ここまでされたのですから、矢野さんにはぜひオリンピックに出てほしいです。

私も出たいです!現実問題として、現役でプレーしている選手は強いので、私は微妙なラインにいると思います。

でも諦めない。彼女たちのポイントを上回らないと評価にはならないので、もうやるしかありません。

寝る間を惜しんでも目標に向けて突き進みたい。後悔して終わりたくないんです。

そしてオリンピックに出場したあとは綺麗さっぱり引退します(笑)。

後輩たちへ。外の世界を見て、失敗を恐れず挑戦して!

―― 矢野さんは3つのチームで活躍されていましたが、ひとつのチームで貫くか、外に出たほうがいいか、どう思われますか?

昔はずっとひとつのチームでやるべきという考えの方が多かったと思いますが、私はいろいろなチームを経験できてよかったと思います。

チームを離れてこそわかるチームの長所短所がありますから。

一か所に留まるより外の世界を見て、視野を広げることは大切だと思います。

―― さまざまな経験を積まれてきた矢野さんからアスリートの後輩たちに将来に向けたメッセージをいただきたいです。

私が20代のときは、何も考えずにバスケットだけをやっていました。

でも、今、自分がビジネスの世界を経験してみて、将来に繋がる力になっていると実感しています。

だから若い選手には、競技生活を送りながらでも将来設計について考える時間を持った方がいいと伝えたい。

失敗したっていいんですよ、まだ若いし、いくらでもやり直せるのだから。

引退するときに「セカンドキャリアどうしよう…」ということにならないように、心の準備はしておいた方がいいですね。

取材後記

インタビュー中、矢野さんは何度も
「自分のバスケットボール人生は、レールの上を走らされていたようなものです」
と語っていたのですが、それは最初だけ。

過酷な練習を乗り越えた先に見つけた、勝利の喜び。
バスケットボールをやっていたからこそ見えた景色が
矢野さんを少しずつ変えていきました。

そして憧れのオリンピックで体験した苦渋が彼女の心に火をつけ
自分の夢の為に新リーグを発足するという大胆な行動に繋がったのです。

バスケットボールをやらされていた女の子が
大人の女性になった今、バスケットボールに人生を懸けています。

2020年の東京オリンピックに向けた矢野良子の挑戦。
私たちは願いも込めて見つめていきたいと思います。

矢野 良子Ryoko Yano

3×3 バスケットボール選手

取材/アスリートエージェント 小園翔太
取材・文/斎藤香

矢野良子インスタグラム
@ryo_yano12

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